11.あったかいね

この世で一番怖いものを知った。
それは純粋な…――


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自分の今の行動が信じられなかった。
に会うために出会った場所に足を運んで、出会えれば少しでも長く居られるように彼女を送るなどと言い出した。
どんな美女だろうと興味など懐かなかった俺がどうして此処になんて考える必要はない、理由なんかわかっている。
気付かないふりをし続けたところで本当はわかっていた。俺を知らず、知ってからもただ普通に接してきた彼女に惹かれていたことぐらい。
解っていて目を瞑ったのは本気になりたくなかったからだ。本気になってるって知っていたから目を瞑った。
「もうすぐだよ」
「そうか」
隣を歩いていたが俺を見上げて言った。
もうすぐだという言葉に残念だという気持ちが生まれて咄嗟に彼女の腕を掴む。細いその腕は柔らかく力を入れれば折れてしまいそうだ。
「何?」
は立ち止まり、見上げる彼女の目に吸い込まれそうになる。俺の中で暴走しそうな何かをギリギリのところで理性で押さえ込む。
所々の街灯があるだけの暗い夜道、そこをよく知りもしない男と二人きりで歩いていることに危機感を覚えていないのだろうか。
俺が正義超人の子であるとしても俺自身は正義超人なんかじゃない。
「なぁ、もう少し危機感を持ったほうがいいんじゃないか?」
「?」
その言葉が解らないというように彼女が瞬きをした。
「よく知らない男と夜道で二人きりになるのは危ないと思わなかったのかよ」
彼女を傷つけたくないはずなのに自分の口は正反対のことを言い始める。
おい、止めろよっと頭の何処かで止める声がする。
「ケビン、自分は危ないって言ってるの?」
「俺はお前にとっては知らない男だって言ってるんだよ」
彼女の的外れな問い掛け。俺が言いたいのはそういうことじゃない。
「大丈夫だよ」
「俺が正義超人の息子だからか?」
無防備すぎる彼女、それは自分が正義超人の息子で彼女を一度だけ助けたからなのなら間違っている。彼女にとって俺は危ない男だ。
「ううん、ケビンがあったかい人だから大丈夫」
「はっ?」
予想もしていなかった言葉に俺は間抜けな声をあげ、俺の声に彼女は自分の発言について考えたらしく。
「えっ、あったかいって言うのは優しいというか。ううん、優しいだけでなく何というか」
彼女の発言はようは感覚なのだろう。人が発する雰囲気、オーラだとかいわれるもの。
今までの俺はクールだとか、ピリピリしているというようなことばかり言われてきた。
「あったかいんだな」
「あっ、うん。あったか…わっ!ちょっと待って」
頷いたの腕を掴んで引き寄せて、腕に抱き。
「あったかいか?」
そう囁けば俺の腕から逃れようともがいている彼女が視線を上げて。
「あったかいというよりも今は暑いです」
涼しくはない季節に人と触れ合うのは確かに暑い。
それでもを放したくないので聞こえないふりをする。
腕の中でもがく彼女は少し大人しくなり、ゴソゴソと携帯を取り出して見て。
「門限まであと20分しかないんだけど」
門限までの時間を確認したらしい。
「聞いてる?ケビン」
答えない俺にが怪訝そうに聞いてくるが、俺は脱力して声が出ない。
こいつは男に急に抱きつかれても門限を気にするのか。無防備すぎるというよりも鈍すぎるんじゃないのか?
あと5分だと騒ぎ始めるまで俺はそのまま彼女を抱いていたが、少しも艶めいたものにならなかったのは彼女の責任だと思う。

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