5.遊戯

小さな子猫が爪を立てても痛くはない。
ほんの少しだけ、チクリッと感じるだけだ。


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此方を睨むその様子は小さな子猫のようなものだ。
その可愛らしさに笑みを誘い、その小ささに守りたいと思わせる。
「おぉ、怖っ!」
参った。と、示すように両手をあげた。そんな自分の行動に彼女は強く睨みつけてくる相手、本当に子猫であればきっと毛を逆立てることだろう。
、お前は子どもじゃないんだろ。だったら、流せないか?」
「間違ったことは間違ってると言いたいものですから。それに、まだ成人してませんので……」
子どもと呼ぶには大きくなりすぎて、大人と呼ぶにはまだ小さな少女。それを本人が理解しているのだろう。
「俺も成人していないぜ?」
同じだという意味でに告げると、彼女は目をパチパチと大きく2度ほど瞬かせ。
「えっ?35歳は過ぎてると思いましたけど」
「ぐっ、俺はそんな歳じゃねぇぞ」
自分にもダメージがきた。別に子ども扱いされないというのは良いかもしれないが、変に年上とも思われたくない。
「だって、ケビンさんってマスクしてるから」
年齢不詳。そう言いたいのは解る。だが、俺には溢れるばかりに若々しさがあるだろうが。
「……って、冗談ですけどね」
クスクスッ楽しげに笑い。
「私を子どもって言ったケビンさんが悪いんですよ」
見た目について此方がからかったつもりが反対にからかわれたらしい。遊戯を仕掛けたのは自分だが、彼女の遊戯にもはまったのか。
「ふんっ、俺よりも60センチは低いからな。は子どもと変わらん」
それが少し悔しくてワザと彼女の隣に立って言ってやる。
「なっ!日本人の平均身長は高くないんですっ!良いですか?日本人の平均身長は…」
いつもより雄弁に彼女は語る。子どもとからかわれたことが引き金になったのだろうその態度は最初の緊張していた時よりもいい。
「今言ってるのはその他大勢より、俺とお前の差だぞ?
彼女の頭の上でヒラヒラッと手を振ってみせる。その手をが振り払おうとするのでその手から逃れながらも彼女の頭の上で手を振るのを止めない。こんな姿を普段の俺を知っている誰かに見られたら、熱でも出てるのかと疑われるだろう。
「もぅっ!ケビンさんっ!」
我慢ならずに叫んだの口を手で軽く塞ぐ。
「近所迷惑だろう」
俺は笑って、その後彼女の耳元で話せば、ムッとしたように彼女が口を尖らせた。塞いでいた手を外す。
「ケビンさんが私を苛めなければいいんです」
不満そうに言った彼女にしれっと言ってやる。
「苛めてないぜ?スキンシップだ」
からかう気持ちがあったのだからイジメなのかもしれないが、一番の目的は彼女の緊張した雰囲気を取り払う為だ。
「本当ですか?まぁ、そういうことにしておきます……本当にケビンさんって有名な超人みたいですけど普通の人と変わらないですね」
嬉しそうに微笑んだ。その様子は自分がケビンマスクという存在を知らなかったのだろうと思わせる。そういえば、自分を見ても特に騒ぎはしなかったな。
「ケビンさんのことを友達から聞いて吃驚しました。特徴を言うだけで当てられちゃうんですもの」
どんな話を聞いたのか。自分が元悪行超人であった、とも聞いただろうか?きっと、聞いただろう。
「俺が普通?……そんなことを言われるとはな」
彼女はそれでも俺が普通だと思うのだろうか。嘘を言ってはいないと俺が信じているのは信じたいからか。
「あっ、気に障ったりしました?」
「別に気にしてない」
心配をされて、俺は肩を竦めた。彼女の気遣いが嫌だというよりも何だか照れ臭い。
「本当ですか?」
そんな俺の態度が彼女を確信させたらしい。間違ってる確信なんだが。
「気にしてないと言っただろう」
身を屈めてに向かって強く否定した。
「でも……」
俺の言葉に此方を見上げている。の瞳が俺に向けられて、柔らかそうな唇が……
「ケビンさんに失礼なことを言ってしまって、す…」
俺への謝罪の言葉を紡ごうとしていて、その謝罪の言葉を聞きたくはなかった。
どうしようかと迷って……。
「じゃあ、詫びに俺の願いことを叶えてくれないか?」
そんな馬鹿げたことを言った。
最初の時に困ったことはないと言った俺からのその言葉にが驚いたように少し、見えた。
そんな瞳で見るなよ。俺も驚いてるんだ。

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