羊草01


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聖闘士候補生とは聖闘士になるために修行することが大前提だ。当然のことながら聖闘士候補生である私自身も修行とは無縁のではいられない人生を送っている。
まず聖闘士候補生になったのは憑依してしまったからで不可抗力だし、止められるものなら止めたいと思っていたのに我が師カミュは私の才能のために別の者に師事することを薦められた。
私は断わった。精一杯断ったというのに「サイコキネシスの才を極めればお前も聖闘士となることが出来るだろう」などと要らぬことを言い、「お前の姉のことならば私が責任を持つ」やらこの身体の子にはお姉さんが入るの?そこのところ詳しくお願いします!と、頭を悩ませているうちにいつの間にか新しい師匠が出来ていた。
カミュが説得してくれたらしいけどね。もうお弟子さんが居るところにそこそこ修行している子、つまり私を任せるとかどうかと思うよ。
そもそも修行地がシベリアより寒くはないが、別の意味で心底冷える場所だったのだ。
新しい師匠のところにはカミュの後ろをついてきたわけだけれど聖衣の墓場にある一本道とか夜中だったり一人で通ることになってたら私は骸骨の仲間入りを絶対にしてただろう。
カミュはムウ様、カミュよりも上下関係は厳しいお師匠様に私を任せると早々に去ってしまった。
新しい修行地であるジャミールは空気が薄く普通に修行するだけでも身体に負担がかかるので、聖闘士の修行場にはもってこいのところだ。シベリアもそうなんですけどね。
もう少し人里近いところとか、過ごしやすいところとかないんですか?シベリアに居た頃より人と接しないんですけど。ここ。
その苛立ちを込めて空中に小宇宙を高めてパンチ、キックを繰り返す。ストレス発散でしかないが氷河やアイザック達を相手にするわけではないので威力とか反撃とか気にしなくていいので楽だ。
っ!ごはんだってムウ様がっ!」
「ありがとう。貴鬼」
テレポーテーションで私の頭上に現れた貴鬼を両手で受け止める。
ジャミールで唯一の癒しである貴鬼は兄弟子ではあるけれどまだ6歳で年下の可愛い子だ。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
私は貴鬼と同調してテレポーテーションで建物の中へと飛ぶ。
このテレポーテーションはジャミールに来てから一番に会得した能力でもある。理由はこれがないと建物の中と外を移動が出来ないためだった。
初日はムウ様が一緒に連れて行ってくれたが次の日に笑顔で自力で中に入ってくることを目標とされた。
昼飯、夕飯とパンとスープと水を外で食し夜中になっても迎えに来てくれないムウ様に本気で会得しないと外に放置プレイされっぱなしだと気付いて必死に明け方に建物の中に瞬間移動した。
だって、リアル動く骸骨が外にいるのに眠れるわけがない!建物に入れた時には小宇宙の高めすぎで意識が朦朧としててその日は一日寝込んでしまったけど、小さな貴鬼の手が握られていたのは覚えている。
意識が戻った時にムウ様に無茶をしすぎると叱られたのは理不尽だと私の心の中にしっかりと刻み込まれていることですけどね。
、食事の準備が出来ていますよ」
カミュと同じように黄金聖闘士であるというムウ様はカミュと同じく髪が長く中性的な美形だ。
それなのに女だと思えないのはかなり鍛えられているのが二の腕とかで普通に見えるからだけどこの身体で恐ろしいまでの腕力を持ってる。かなり大きな岩の塊を聖衣の材料といって持ってきたことがあった。
「ありがとうございます。ムウ様」
すっかりとテーブルに並べられ、準備された料理に礼を言い私用のイスへと座る。
「ムウ様、むすんで下さい」
隣には貴鬼が座りその瞳を閉じるとムウ様が布を貴鬼の瞳を被うように巻き結んですぐには外れないようにしている。
「出来ましたよ。貴鬼」
「ありがとうございます」
笑顔の貴鬼の礼にムウ様は頷き。
「それでは私は聖衣の修復をしています」
「はい」
「わかりました」
彼がこの場を去るまで待ってから私は仮面を外す。そう仮面、これはシベリアの時とは違って常に身につけている物だった。
性別が変わり、元男であっても女の身体となっている私は身に付けていなければいけないものだという。
聖闘士となるためには女を捨てなければならず、仮面の下を見られればその者を愛するか殺すかしなければいけないだとか説明された物騒な代物だ。
「今日の夕飯はとっても美味しかったよ」
楽しげに話す貴鬼が布を巻くのもそのためだ。師匠であれば弟子の素顔を見ても、修行の一環のうちと問題にならないらしいが弟子同士は違うらしく仮面を外す食事の時に貴鬼には絶対に顔を見られないようにと注意されている。
そのために食事は一人きりで食べていて、それを気にした貴鬼が見なければ一緒の部屋に居られるとムウ様に直談判し、私の食事中に隣にいてお喋りをしてくれるようになった。
「そう、それは楽しみ」
「ゆっくりとよくかんで食べてね」
「ええ」
ムウ様に自分が注意されていることを私にも注意しているのだろう貴鬼の言葉に頷く。
私の二人目のお師匠様は聖域でもかなり特殊な人らしく、唯一、聖衣を修復できる存在だという。その修復師としての教えは一切受けておらず修復師としての弟子は貴鬼だけだ。
聖闘士としての弟子としてはここに来てから直接的な指導は毎日されているけれど短時間だ。聖衣の修復、貴鬼への技術の伝授、私の修行となるとシベリア時代より修行は緩やかなものだった。
カミュ達に会えないことに寂しさを覚えることもあるけれど、貴鬼の可愛らしさには大変癒されるのでここはここで悪いところではない。
楽しげに今日教えられたことを私に話してくれる貴鬼へと相槌を打ちながら二人きりの食事をする。
でも、少し気になるのは伝承者だけに伝えられることまでうっかりと話してたりしないかということだ。
流石に話してはいけないことがあればムウ様に注意されるだろうしそれはないか。
「ねぇ、
浮んだ心配を流して私は貴鬼の話に耳を傾けた。




貴鬼視点

新しい弟子が来るときいたときいやだった。人が来るのは楽しみだけど、ムウ様とオイラとずっといることになるってきいてモヤモヤしたんだ。
だから、が着たときにはムウ様に言われるまで何にも言わなかった。それでも「よろしく」と言ってくれたはやさしい。
次の日にさしいれをオイラが何も言わずにで渡したときだって「ありがとう」って受けとってくれた。
それなのにその時のオイラは何で笑ってるのかわからなくてイライラして、にがんばれっと言うこともしないやなやつだった。
テレポーテーションをその日のうちに使えるようになったはさいのうっていうのがあったんだとおもう。
でも、がんばったあとにあきらめたらムウ様はむかえにきてくれる。それだけでも言ってあげたらよかった。そうしたらはむちゃをして、ねこまなくてすんだかもしれない。
はだれかがとめないとしゅぎょうをやめない。ムウ様がとめないからオイラがいつもとめる。
ごはん、おやつ、しゅうふくのためのざいりょうを取りに行くからとついてきてもらったりといろいろな理由で。
オイラが話しかけるとはいつもオイラの話をきいてくれる。
はオイラより年上でつよいけどオイラの妹弟子でサイコキネシスはオイラよりへただ。
オイラがのほうがつよいと言えば、いつかオイラはよりつよくなれると言った。
サイコキネシスはオイラのほうがうまいと言ったら、もっとのばしていくといいと言った。
はオイラにいやなことを言わないし、オイラにいっつもやさしくしてれるのにはムウ様とオイラが話しているとすこしはなれたところにいる。それが何だかいやだった。
女だからは仮面をつけていて、オイラはの顔をちゃんと見たとことはなくて、ムウ様にも見ちゃダメだって言われてる。それも何だかいやだった。
「ねぇ、
とってもいいことをかんがえたから、ごはんを食べているがいるだろうほうを見てオイラはをよんだ。
「うん?」
やさしくオイラの話をきいてくれる。
「オイラ、がとってもとってもすきだよ」
「私も貴鬼が大好きだよ」
さいしょはいやだとおもったこともあったけど、をしったらそんなのぜんぜんなくなった。
いつのまにかオイラはがすきになってて、もオイラをだいすきだって!
「じゃあ!もっとすきになったらの顔を見せてねっ!」
「うん!……うん?」
「えへへ、そうしたらムウ様とオイラとの三人でごはんを食べられるね」
の顔はがあいしてる人じゃないと見れないってムウ様は教えてくれた。
あいしてるって何だろうときいたら、すきのたくさんでって教えてくれた。
オイラをがだいすきなら、たくさんのすきはもうちょっとだとおもう。
みんなでごはんを食べられるようになったら、もさびしくないしムウ様もきっとよろこんでくれるとおもう。







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