友情宣言


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気がついたら全裸だった。流石に男であっても知らないままに脱がされるなんて事態になればパニックになるだろう誰だってさ。
そこに目の前に人間それも野郎が居れば殴るよな?つまりはそういうことだ。と、俺は目の前に居た男に説明してやった。
「まったく説明になっていませんよ!」
「ああん?わざわざ俺が説明してやってんだから理解しろ。変態野郎」
ペッと床に唾を吐きつけて極彩色豊かな変態に睨みをきかせる。
「へっ、変態って何を言ってるんですか!」
こういう時は弱みを見せれば相手はつけ上がるものだ。
左頬を赤くはらした前世は孔雀だったと思われる銀髪赤目野郎。
色のせいでアルビノかと思ったが肌の色はそこまで白くはないので違うっぽいその男は不機嫌そうに頬を膨らませている。
「かわいくねぇな」
大の大人な男がするものじゃねぇだろ。
「何ですか!いきなり失礼ですね!レプリカの癖に大人しくなさい!」
「はぁ?レプリカって……」
何だと言おうとした俺の脳内にレプリカという知識があった。
おまけに俺はレプリカで俺のオリジナルである被験者様には逆らうなだと。それはムカツク、即却下。
そもそも俺はという立派な名前があるし世間様には少々ぐれた人間と思われた過去を持つ大学生だ。
大学では大人になった俺は愛想笑いも浮かべれるようになったが根っこの部分はガキの頃からあんまし変わってねぇ。
「よくわかんねぇけどよ。俺に命令すんなや……な?」
納得できないとことを誰かに指図されるってのが我慢ならねぇんだよ。
「おっ、脅しても、むむむ無駄ですからね!」
青ざめた顔でじりじりと下がっていく男。俺は指をわざとらしく鳴らしてそいつに近づいていく。この身体、実はすこぶる調子が良い。
俺の中に何でかある知識によるとこの身体はという俺のものではなくてイオンというヤツの複製品らしいし、被験者と比べると劣化しているという話だが本来の俺より調子が良いっていうのは元の俺ってこの身体の被験者とやらより劣化してたわけか?ああ?
「マジでムカついてきた。殴っていいか?」
「良いわけがあるはずがないでしょう!」
「あー、だろうな……で、失敗作の俺をどうするつもりだ?」
俺が目覚める寸前に聞いた失敗作という単語。
その単語に嫌なもんを感じたので聞いてみたんだが……俺の勘も当たるもんだな。
「失敗作は破棄する予定です」
破棄だとよ。失敗作は破棄。
「へぇ、破棄かよ」
こう呟いた後の記憶はうろ覚えなんだよな。ガキの頃とは違って考えて行動するようにはなったんだけどよ。
やっぱ人間って混乱してる時とかって性格出るよな?つい殴っちまったんだろうな。あとアイアンクローもしたような気もするけど。
この後はディストと名乗った男に自分が造り出したのなら求める結果と違っても命は大事にし責任持って面倒をみることを約束させたってわけなんだよ。



この世界で目覚めた時の経緯を年下の友人に話してみたがこの友人は冷たく。
「はっ!面倒はみてもらってるじゃねぇか。
「ちげぇよ。逆にこっちが面倒みてんだよ」
確かに破棄という目にはあわなかったし俺と同じレプリカ達も身体が弱くて剥離したヤツを除いて俺を入れて六人生きている。
最後の一人が成功例として被験者の導師という地位を継いだらしいので俺は会ったことはないが他の四人とは会った。
俺と1人だけを残してダアトを離れはしたがいつかの再会を約束して別れたという美しい思い出もある。
そして、ディストの元に残った俺とシンクという俺の弟分は髪を染め仮面をつけ顔を隠してダアトでの生活を過ごすことになった。
人間関係が破綻していたディストの周りにはあまり人が居ないので特に問題が起きなかったんだが、顔を隠した双子とかって怪しすぎだよな。
だというのにそれが問題にならないというヤツのほぼない人間関係のおかげで俺達は苦労したんだよ。マジで。
だって、離れていった子達にそれぞれ一人ずつ一年ぐらいお付きとしてついて行ってもらったらディストの周り誰も居ないでやんの。あまりに憐れで泣けてきたんだぞ。
「で、俺に何が言いたいんだ」
まだ子どもって言っていい年齢だというのに眉間の皺を深くした友人の眉間をつく。
「ああ?つまりだな。お前のレプリカはクズ発言がムカツクから止めろってだけだ。俺も一応はレプリカだし」
別の記憶があれどこの身体は最初のイオンレプリカなわけなんでな。
「触んな!ムカツクなら話しかけなけりゃいいだろうが!」
俺の手を勢いよく払って睨みつけてくる友人、鮮血のアッシュとか恥ずかしい異名を持つ男。
そしてその異名を名付けたのはこの世界での俺の親を自称する薔薇のディストと呼ばれたい死神ディストという可哀想なヤツである。
「やだ。俺はお前を気に入ってるから」
「気に入られる理由がないだろうが!」
アッシュの言葉に笑って断れば案の定苛立っている。
解りやすいこいつの行動は楽しいので、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていることだろう。
「怪しいから近づくなって言っただろ?」
正確には胡散くせぇ奴等が俺に近づくじゃねぇ!だったかな?
「気に入る理由じゃねぇよ」
「そうか?他のヤツよりは素直でいいと思ったぜ」
「殴ったじゃねぇか」
アッシュの言葉に間髪いれずに殴ったことを根に持っているらしい。
「だって、面と向かって言われたんならケンカ売ってるって思うだろ?買っただけ」
「しばらく顔の痣が消えなかった」
殴った左頬に手を添えてしかめっ面になるアッシュはその時の痛みでも思い出したらしい。
恨みがましくこちらを見てきたのでアッシュの肩に手を回して叩けば。
「やだなぁ、アッシュは男だろ?それに怪我したくないなら避けろって」
「お前とシンクの攻撃は速いんだよ」
うっとうしそうに払われる俺の手。ただ頬が赤くなってるので照れてると思われる。
兄にかまわれて照れる弟みたいな感じでこういうとこが可愛いんだよな。
「そうか?俺はシンクより遅いけどなぁ……そういえば聞きたいことがあったんだ」
「何だよ」
聞きたいことと聞いてアッシュの視線がこちらを向いた。
今のコイツは口が大変よろしくないがこういうとこに育ちが出てるよな。
頭に血が上ってない限りは相手の話を真面目にきく姿勢をみせる。
「アッシュって俺とシンクがレプリカって知ってただろ。驚いてなかったしな」
「……何を」
そこは知らないふりしてるのなら驚くところだっただろ?とはいえ、前々から知ってるんじゃないかとは思ってはいた。
急に現れてほぼ飛び石的にとんとん拍子で上へとあがってきた俺らを気に入らない目で見てるヤツはいる。
仕方がないとは思いはしてもそれにムカつかないわけじゃないし、影でコソコソするぐらいなら面と向かって言ってこいとは思う。
そうされれば俺の性格からしてケンカ売られたって思うだろうけどよ。殴り合えばすっきりする。
少なくとも俺はアッシュの言葉が嫌じゃなかったんだ。ああ、うん情けねぇけどよ意外と陰口って精神的にくるんだよな。
「もしかして最初から知ってた?」
「俺は……」
「レプリカ嫌いなら俺達に近づいてほしくなかった理由にはなるわな」
「……」
俺の言葉についには俯いて黙ってしまった彼の頭を乱暴に撫でる。
「まぁ、俺は気にせず話しかけるけど」
「てめぇ!」
またも乱暴に払われる俺の手。
「ははは、このおにーさまの広い懐を舐めるんじゃねぇよ」
自分の胸を軽く叩いて胸を張る。
「馬鹿か!一年半しか生きてねぇだろ」
俺達の正体をやっぱり知ってやがったじゃねぇか。
それでも付き合ってくれてたのは俺達のこと嫌いじゃねぇって証拠かね?
「だーかーら、俺は別の人間の記憶が二十年分あるんだって」
ニヤリと顎に手を当ててちょっとかっこつけて笑ってみる俺はなかなか様になってるはずだ。
この表情はシンクに冷めた眼差しで見られながらも鏡の前で練習に練習を重ねた表情だからな。
「信じられるか!大体、大学生とか何だよ?」
聞いていないようでちゃんと聞いててくれたんだな。特に突っ込みなかったから流されたかと思った。
「えー、超すごい学生みたいな?」
とはいえ、聞かれると説明に困る。日常生活において大学生って何?とかあんまし考えないもんだしさ。少なくとも俺は考えことなかった。
「学んでいる時点ですごくねぇだろ」
人間は常に学習しなくちゃいけない生き物だぞ?とかいう意見は横においておこう。
話が妙な方に飛んで後に話を逸らしたと怒鳴られるのは俺である。乗ったのは自分のクセにとか正論言ってもダメなんだよなぁ。
とはいえ、彼の性格を知っていて話を逸らしたことがあるのも事実だから強くも言えないんだけどよ。
「簡単に説明すると俺の記憶には幼稚園三年、小学校六年、中学校三年、高校三年、大学四年という教育機関があるわけよ。
 細かいこと言うと幼稚園以外にも保育園があるとか大学は二年の短大があるとかあるけど、それはいいよな。
 大体はそういうふうに区分すんだわ。それで、俺はその最後の大学に通ってた学生ってわけ」
「つまりお前はかなりの教育を受けてたってわけか」
日本人だとしたらそれほど珍しい経歴でもないが、この世界だとそれだけ学べるのは良いお家柄らしいので適当に頷いておく。
「そうそう」
「超すごい学生っていうのも間違いじゃないんだな」
「ぷっ」
いつも眉間に皺を寄せているアッシュから『超すごい学生』とか聞くと違和感がありまくりでふき出してしまった。
感心してるからこその言葉だとはわかってはいるんだけどな。
「何がおかしい?」
瞬間湯沸かし器よりも湧きやすいアッシュが顔を赤くして怒っている。
「怒るなって、お前が可愛いから微笑んだだけだって」
「ああ?笑いもんにしたの間違いだろが!」
俺の少しばかり苦しい言い訳に納得しなかったアッシュが胸元を掴む。
軽く引き寄せて睨まれているだけなのであまり苦しくはないが服が伸びるのは困るな。
「いやいや、自分で言うのも何だが俺の笑顔って貴重なんだぞ?」
シンクとの色違いでのおそろいだし、まだ新しい服だからとその手を放しつつ言えば。
「嘘つくんじゃねぇ」
一刀両断される。しかし、これが実は……
「それが強ち嘘でもないよ」
「シンク」
何処からかはわからないが会話を聞いていたらしいシンクの肯定の言葉が聞こえた。
シンクの言葉には否定しないアッシュに俺との扱いの違いをきいてみたくなる。
「おー、シンクじゃん。髭への報告お疲れ」
弟分のシンクは年齢のわりに老け顔な我らの総長殿、通称は髭。
本人の前で呼ぶと嫌そうな顔をするが剃らないところをみると髭って呼ばれて喜んでる可能性がある男で、よくわからないが預言に縛られない世の中を創ろうとしているらしく、一番預言に縛られてる人間でもある。
シンク的には俺達を利用しようとしているらしいが今のところは普通に教団員がすることだけしてるから特に問題はないと思うんだがシンク的には1年も生きてない人間に師団を任せてる辺りが変なんだと。
俺的には二十年ほど生きてるからありじゃね?とか思うけど、髭は知らないわけだから確かにあの髭はおかしい。
「本当だよ。僕に報告を任せて君はアッシュと楽しそうに御歓談なんていい身分だよね?報告は君の役目でしょ?僕は副官なんだよ?」
「荒れてるなぁ」
シンクは髭がお嫌いらしい。俺としては阿呆なヤツだとは思うが嫌いじゃない。
あの男の行動はまるで恋する人間を見ているような気がするからだ。預言を憎んで憎むあまりのその行動にしては預言に沿った行動をする。
確かに預言どおりにした方が予測は立てやすいかもしれないが、逆に言えば早めに預言を壊したほうが預言に縛られない世界が出来るだろうに。
預言の修正力?そんなもん修正する前に引っ掻き回せばいいだろと思うんだがとか俺なんかは思うんだけどよ。
下手に頭がいい奴は効率などといって効果的なタイミングとやらを考えるから面倒になんだよとか思う俺は考えなしか?
「お前がシンクにいつも任せっきりだからじゃないか?」
「じゃあ、今度は俺が行くか」
別に俺が報告に行ってもいいが髭が求める答えを言えるかは別だ。
「ダメ、報告は僕がする。でも、は隣で聞いてて」
「二人で並ぶ理由がわかんねぇよ」
髭が嫌いなのに髭への報告を俺に任せることはしないのは何故だ?
二人きりにはさせないようとしているらしいシンクの行動は俺としては謎だ。
「後でに説明するのが二度手間なの。それで話を戻すけどの笑顔は貴重だよ。君の前ではよく笑うけど」
「はぁ?」
「だってよー、アッシュと話してると地元の……昔の連れと話してる感じがして力がほどよく抜けんだよ」
部下とか言われるとあまりに馴れ馴れしくするとダメなんじゃね?とか思うと親しくもし辛いしそんなこと考えちまうと笑顔も出ないという精細な人間なのだ。
そもそもシンクが周囲の人間に無茶言ったりしてそれを命令とか思われたりしたら面倒だと言ったんだぞ。
俺が知る上司部下より上下関係厳しいみたいだし、俺の今の見た目年齢では本音を聞きだすために下手に飲みにとか誘えない。
そうなると同じような立場の人間と話すようにしてみたが、年齢で子ども扱いされるか性格で話が合わないかで一番話が合うのはアッシュなんだよな。
「連れって部下とかそういう意味?」
シンクお前は昔の俺をどう誤解してるんだ?部下とか持つような立場の人間じゃねぇんだぞ。
「ちげぇよ。友人とかそういう感じの意味」
「友人だと?俺もか?」
間髪居れずに訊ねてきたアッシュに言葉が詰まる。
これが冗談を言ってるとわかる表情ならば突っ込みようもあるが大真面目な顔だ。
真面目な顔して冗談をいうようなヤツではないのでこれは本気だろう。
「アッシュ、今更違うって否定しても意味ないよ」
肩をすくめたシンクの言葉にアッシュは首を傾げ。
「否定っていうか俺達は友人だったのか?」
「……」
「……やべぇ、シンク。俺泣きそうなんだけど」
シミジミと呟いた彼にかなりショックだ。
友人というか悪友みたいに思っていた俺の気持ちは届いていなかったらしい。
友情でも一方通行の片想いってあるんだねっと肩を落とせば。
「アッシュ、を泣かせないでよね!仕事が溜まるでしょ!」
「いや、だって一度も友人だって言われたことはないんだぞ」
仕事を心配してだとしてもシンクが庇ってくれたがそれに答えたの彼の友情宣言がなければ友人ではない発言。
何を言っているのかコイツはと突っ込もうとしたがその前にシンクは納得したように頷き。
「そうなの?じゃあ、が悪いね」
「だろ」
アッシュの言葉に賛同している。
「なっ、何で俺が悪いことになんだよ!普通は友人って言うもんじゃねぇだろーが!何時の間にか友達なんだよ」
二人で納得しているところに俺は叫んで二人の間にチョップを入れた。
何でお前らが友情に宣言が必要だと考えたのかが俺にはよくわかんねぇよ。
「へぇ、そうなんだ」
「そうなのか」
俺の言葉に否定しない二人に俺はため息をついて両手で顔を覆う。
「……そうなんだよ。で、俺達三人は暇な時はよくつるんでるから友達だと俺は思うわけ。シンクと俺は兄弟でもあるけどさ」
顔を上げて友情宣言しないと友人とは考えてくれないらしい二人にそう言えば、二人は仲良く顔を見合わせ。
「まぁ、いいよ。僕はそれで」
「俺もそれでいい」
「それ扱いの俺との関係って……」
俺を見た後に似たような返事を返してくれる。
断られないだけマシだとでも思わないとやってらんねぇよ。
「身体が鈍るのも嫌だし鍛錬に行くよ」
落ち込んでいる俺を慰めること無く訓練所へと歩き出すシンク。
「……行くぞ。
アッシュは歩き出す前に俺に声をかけ、彼の言葉に俺が返事を返す前に先に歩いていたシンクが立ち止まり。
、アッシュ、遅れないでよね」
大きな声を出して俺達二人を呼ぶ。先に行ったのはシンクなんだが……
「先に行ったのはお前だろ。シンク」
「遅い二人が悪いんだよ!」
考えていたことと同じことをアッシュが言いそれに言い返すシンクと仲が良さげな二人に小さく笑う。
俺が歩き出せばアッシュが俺の隣を歩き出し、シンクの隣に立てば並んで歩くのは三人になる。
真ん中が俺で言い合う二人の間でちょっとうるさいがこれもまた幸せな悩みとやつなのかもしれない。




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