聖戦不参加な聖闘士
聖戦が起きたらしい。らしいというのは聖闘士だというのに聖戦に参加しなかったからだ。
何となくおかしいな?という感じはしてたんだけどね。気のせいだと思うんだけどカミュの小宇宙がしばらく感じられなかったんだよ。でも、私は素直に師の『聖域からの指示あるまで待機』という言葉に従っていた。
これが私の今はいない兄弟子や弟弟子であったのならば感じた違和感に「ハッ!カミュ!」とか言って颯爽と駆け出したことだと思うが私としてはこの身体の姉であるというという私と同姓同名どころかもう少し肥らせたら若い頃の私だよねという意識不明少女の身体を離れたくなかったのだ。
この身体は男ではあるが彼女の弟のものだし、心は他人だけどもしかしたら平行世界の自分というような存在なので全くの赤の他人に世話をされるよりも良いと思うんだ。
もっとぶっちゃけるとこれだけ似てると他の人にこの娘の裸を見られるのは自分の裸見られているみたいで羞恥に耐えられんというのが本音ですけどね。
こんな弟もどきに世話をされたくないと思うのなら、ちゃん起きておくれよっ!と、日々念じつつ声をかける日々は看護士な皆様には親戚に引き取られていた弟がしばらくぶりに姉と再会して献身的な看護をする図らしくてお姉さん方には可愛がられてますよ。
実はこの身体、巧君というらしいが彼は成長した15歳の今ではまさに紅顔の美少年。
カミュ達に囲まれているとこの顔でも普通に感じてたんだけどね。日本に戻ってきてチヤホヤされて気付きました。あっ、今の私って美少年なんだってね。
気付いてからの私はシベリアではそこそこしか出来なかった手入れをし、全身を磨き上げましたとも。ああ、別にそれはストレス解消だったから一時的なものだけど。
おかげでだいぶ磨かれたし、きっと師カミュの横に立っても違和感とか他の人が感じない程度にはいけると思う。
髪もただ伸ばしていたのをカリスマ美容師に整えてもらっただけですごく違うのは流石はカリスマだ。
ちゃんのお世話をしつつもしっかりと楽しむべきことは楽しんでいた私はそうやって平和に日本で過ごしていた。
1年はそうやって生活していたが、このまま日本で一生過ごしていたいと思っていた私に恐れていたことが起きた。
我が師カミュからの聖域への徴集指令。別に師のことは嫌いではないが聖闘士としての心得としてクールに振舞えというのでちょっと苦手である。
だって、クールに振舞えって教えている時点でクールじゃないという私の長年の思いをどうすればいいのかわからないからだ。
そうは言っても師の徴集というか聖闘士の頂点たる黄金聖闘士の呼びかけに答えないとなると聖闘士としては処罰ものだろう。
届いた手紙を読み終わってから、この部屋で眠り続けるちゃんの傍らに立つ。
「……姉さん、先生に呼ばれたんだ。行って来るね」
弟を演じることが偽善であるというのなら偽善で結構。私は眠る少女の夢を壊す気はない。この声が弟として届くのなら本望というものだ。
そんな風に自分を皮肉って私は師の呼びかけに答えるべく、持ち歩きたくないパンドラボックスを取りに借りているアパートへと歩き出す。
師カミュからは宿泊費としてけっこうなお金を頂いて生活していたがホテルは胃が痛くなるのでアパートを借りたんだよね。
そのお陰でだいぶお金に余裕があったのでカミュから今まで振り込み途絶えてたけど1年は余裕で生活できた。保証人については素敵だね催眠術って答えておく。
実は聖域に足を運ぶのは二度目です。一度は聖衣を得て教皇にそのご報告に師カミュと一緒に行った時だ。
女でもないのに仮面している教皇に実は女だった疑惑をかけてジロジロ見てしまった。
その後に長期任務言い渡されたんだよね。すぐさま出発するようにと言われたから氷河にも会えなかったし、アイザックが行方不明になった時にも傍に居ることが出来なかった。
私が傍に居てどうにかなるものではなかったが一応は聖闘士になったのだから聖衣あれば何とかなったんじゃないかなっとも思う。
とはいえ、聖衣と相性がよかったから聖闘士になれた私としては実力は私より上だったアイザックより先に聖闘士になったのは申し訳ないことだった。
そんなことを考えていると知れば彼は私を叱ったことだろうとしんみりと兄弟子のことを考えている私の耳に懐かしい声が聞こえてきた。
「!」
……行方不明の彼がどうしてここに?えっ、何?師弟そろって見つかってたのに私に教えなかったわけ?嫌がらせ?
振り返って声の主を見る寸前までイラッとしていた私は悪くない。
「アイザック」
別れたときよりも逞しくなった彼の顔は特徴的な怪我があった。
その大きな傷は治ってはいるが左目は潰れており彼は隻眼となっている。
「……久しぶりだな。聖闘士となったと聞いた。それも白銀聖闘士とは共に師カミュに学んだ者としては鼻が高い」
変わらないその笑みがその傷跡を浮かす。
「アイザック、無事で……」
戦いらしい戦いなどなかった自分とは違ってアイザックはこれほど怪我を負うような戦いをしたのだと思うと何も言えなくなった。
平穏に生きることに罪悪感などはないが、戦いの中に親しい人が居ることに痛みを感じる。
そうか。自分は黄金聖闘士であるカミュの強さと彼に学んでいた兄弟弟子達が弱いはずが負けるはずがないと考えていたのだ。
黄金聖闘士が12人も居るって時点でその考えは間違っていることは明らかだったと思うがあんな化物みたいな人が掛ける12いるとか思いたくなかった。
「すまない。心配をかけた」
「いや、アイザックなら必ず生きていると思ってたよ」
少なくとも私よりも死ぬ確率は低いと思ってたんで行方不明ということは生きてるとは思ってた。
帰れない状況に陥ってるのかと心配はしてたけど、帰ってきたのならいいや。
トンッとアイザックの胸を拳で軽く叩けば返礼としてアイザックも私の胸を拳で軽く叩く。
あまり強くやりすぎると喧嘩になるのでこういうことする時は注意なんだけど。
「ありがとう」
「おかえり、アイザック」
ここは共に学んだ修行場ではないが聖闘士達の本拠地だから別におかえりでいいだろう。
そう思って言った私の耳にアイザックからの返答が来る前に耳に届いたのは違う声だった。
「なぁ!クラーケンのアイザックと話してるのは誰?聖闘士だろ?」
聖域でも十二宮を通るための入り口で出会うとは思わなかった自分より年下の少年だ。
アイザックは私と同じくカミュが師匠だから驚かなかったんだよね。
あれ、この考え方だとこの少年も黄金聖闘士が師匠かもしれない。
しかし、クラーケンって前にアイザックが憧れていると言ってた怪物だったはず。
それを名前の前に付けられているとはアイザック、どれだけ憧れてるって言い回ってるのかと心配になった。
「……知り合い?」
「まぁ……アリエスのムウの弟子で貴鬼だ」
妙に言い辛そうなアイザックの態度に首を傾げる。彼が子どもが嫌いとは聞いたことがない。
「私はアクエリアスのカミュの弟子、アイザックの弟弟子になる。よろしく」
私が修行を始めた頃と同じぐらいの貴鬼に頭を下げると彼は少し驚いたようだったがすぐに笑い。
「聖闘士が聖闘士の弟子に頭を下げるなんて聞いたことないよ。おいらのことは貴鬼って呼んで!」
「貴鬼だね。わかった」
友好的なその態度をみるに彼の師という黄金聖闘士に絞められる可能性が低くなっただろう。
どれだけ可愛くても背後に化物がいる時点で気を使ってしかるべき相手だ。我が身は可愛い。
「ねぇ、が星矢達が待っている人だろ?」
「……星矢?」
名前からして日本人のようだと思うが聞き覚えがない。
こういう時はアイザックに聞くに限ると視線を向ければアイザックは頷き。
「師カミュがお前を聖域に徴集したことだ。氷河の兄弟を癒してほしい」
「星矢、小宇宙を燃やしすぎちゃって神経っていうのかなそういうのがズタボロなんだってさ。ムウ様もヒーリングで癒したけど難しいんだって、歴代のコップ座の聖闘士はヒーリング能力に優れてるって話だから……」
黄金聖闘士が出来なかった癒しを私が出来るはずがないと血の気が引いた。
「貴鬼、それだと重症に聞こえるだろう。、彼は命に別状などないし将来的には日常生活には支障がないていどには回復はする見込みだ」
私としては日常生活が出来るけど戦えないのはよいことだと聞こえる。とはいえ、アイザックと氷河にとっては戦えないことは辛いことだろう。
私が日々の修行の辛さに投げ出したくなる日も彼らは嬉々として参加してたからね。
「私が治せるか保証はできないけど精一杯務めるよ」
氷河の兄弟という話しだし似たような性格な子達なんだろうかね。兄弟というのだから氷河は三人兄弟かと想像して氷河に似てる金髪少年が並ぶ様を想像した。
「おいらが案内するよ!ついて来て」
「うん、貴鬼」
先導して歩き出す彼の後ろに続けばアイザックも後ろから続く。
さて、氷河の兄弟という子の治療終わったらコップ座の聖衣を返上していいかな?
あんまし戦いに行かない聖闘士だって聞いたけど癒し手として求められてるのなら勘弁してほしい。
私としては助けられなくて恨まれるとかも嫌だし、そもそも助けられなかったらと思うと頭が痛い……臆病者で結構だよ。ほんと。
案内されたのは教皇がいると教えられたことのある建物だ。こんなところでお世話になってるって氷河達って何したの?
そういえばカミュからの手紙には聖戦があったて書いてあったね。参加したのだとしてここにいるということはかなり活躍したのかも。
詳しくは会った時に話すと言われているからまだよくわかんないんだよね。アイザックがどうしているかとかも謎だ。
そして、そのアイザックはカミュ達に私が来たことを告げに行くと今は別れている。そもそもカミュはたぶん気付いてると思うけどね。
「あの部屋だよ」
貴鬼が指差した扉へと駆け出して扉を開け放つ。
「星矢たち、大人しくしてた?」
扉は開いたままで貴鬼が中に居るだろう氷河達へと声をかけているがその返事の声は……
「だぁっ!貴鬼かよ!暇だぜ」
「静かにしないか」
「そういうけどなぁ紫龍、どれだけベットで寝てればいいんだよ。俺を治してくれるヤツ遅すぎだろ!」
「そんなことを言ったらダメだよ。星矢」
「星矢、治療をなるべく痛くしてもらうように頼むぞ」
「何だって!」
日本語だった。あれぇ、ここってギリシャでしたよね?
それに氷河、日本語で話せるのなら日本語で話してくれ。ロシア語やギリシャ語を必死に話していた私の苦労はなんだったんだ。
いや、わかってるよ。カミュは言葉を覚えるために慣れ親しんだ言葉を話さないようにって言ってたしさ。それでも理不尽だと思うんだよ。
「、星矢のことお願いね!おいらはムウ様のところに行くからも後で来てね」
貴鬼が私に治療を頼むと部屋を出て行ってしまったので少しばかり迷いつつも。
「元気そうだね。氷河」
日本語で何でか話している皆さんの輪に入るために私も日本語で参戦。いや、母国語だから苦労しないけどね。
「!どうして此処に」
「カミュに呼ばれた。君の兄弟を治療するようにって説明を受けたけど?」
「……が?」
中へと入ると氷河とあんまり似てない三人の少年達だがそれぞれ顔立ちは整っているようだ。
ベットの上に居る子は星矢といって元気な子で皆に注意を受けていた子のようだ。
癒してほしいと言っていたのだから氷河の兄弟の一人はこの子で決まりだと思う。
「氷河の知り合いか?」
ベットに横になっていたが私が入ってきたことで起き上がろうとする少年を止める。
「起きあがらなくていい。なるべく身体に負担はかけないで」
もう一人は残り2人を見てみたがどっちかわかんないな。
そもそもどうしてこうタイプが違うのかが謎だ。
「女ぁ!?」
身を起そうとした時に私の顔を見たらしい星矢少年が叫んだ。
そのいきなりの大声に思わず眉を顰めてしまう。
「ちょっと星矢!仮面つけてないから女の人じゃないよ!」
四人の中でも一際輝く美少年が騒いだ少年を嗜める。
「えー、でもよぉ。あの顔って……」
確かに世間一般的には紅顔の美少年ではあるが彼等と並ぶと普通な気がするぞ。
カミュに一度聞いてみようかな。聖闘士は顔で選ぶんですか?って……それで肯定されたら逆に困るけど。
「これから世話になる相手に対して失礼だろ。星矢」
これは見事なキューテクルな長い黒髪を持つ少年。たぶん手入れとかは気にしていないと思われる。
「は白銀聖闘士で俺の兄弟子だぞ。カミュに続く実力を持っている」
氷河、お前の中の私はどれだけ強いの?白銀には選ばれたけど相性の問題であって実力はぺーぺーですよ。
あとね。カミュに続くではなく黄金聖闘士に続くといったほうがいいと思うよ。
「マジで!」
「それで治療はしなくてもいいのかな?」
長い黒髪の少年と氷河にまでたしなめられている少年はあんまり反省した様子はない。
「いる!俺俺」
私の問いに元気よく手を上げた少年の声。コップ座の聖衣が入ったパンドラボックスを置いて部屋に居る全員を見てから頭を下げ。
「私はクレーターの、よろしく」
何でかしらないけど聖域では英語で星座を名乗ることが多い。
そのためコップ座ってクレーターって名乗るんだけど日本人としては月とかの穴ぼこイメージするから微妙だ。
もちろんそういう意味でのクレーターではないんだけど。
「手早く頼むぜ。俺は星矢」
「紫龍だ。お願いする」
「僕は瞬です。よろしくお願いします」
それぞれの返事を聞いた後に私は星矢が眠るベットの近くへと近づいて彼の小宇宙の流れ、世間一般的で言う気の流れを探る。
奇妙なことにそれは時に太くなったり細くなったりと場所によって流れ方が違う。
「無茶な小宇宙の出し方をしたね」
どんな出し方をしたらこうなるんだ。少なくとも1、2回ではなさそうだ。
本来であれば無茶をしてもよほどでなければ修復出来るものなんだけどな。
「治らないのか?」
「すぐには無理。徐々に治さないと負担が掛かると思う」
細いところを拡張するのはよいとして太いところがどこまでの太さに戻すのかわかんないし。
治療しながら彼に小宇宙を高めてもらったりとか様子見しないといけないだろうなぁ。
「治るんだな!」
嬉しそうに笑うその表情に安堵の色を確認して、もしかしたら少年の先程までの態度は空元気だったのかもしれないと推測した。
そうだとしたらいつものようにすることで周囲も自分自身も何ともないと騙していたのだろう。意識してか無意識かは知らないけど強い少年だ。
「闘うのに支障はない程度にはね」
彼らが聖闘士かどうかは正確なところは知らないが聖闘士である氷河と同じ扱いなんだからたぶんそうだろう。
星矢の治療をしてもいいが小宇宙を高めなければいけないし、他人の小宇宙の流れを修復するなんてかなり疲れる行為だ。
ここまで移動してきたことで疲れているわけではないが念のために黄金クラスの人間に許可を得ないといけないかな。
そう考えて思わず顔を顰めてしまったのだと思う。
「」
氷河の不安そうな声に視線を向ければ他の三人からも何時の間にか見られていた。
「……私の小宇宙だと今日は彼の治療で終わり」
「ああ、わかった。早速頼む」
いやいや、紫龍、早速って許可貰ってないんだけど?
星矢の治療したらへとへとになって移動するのが億劫になるんだよ。お泊りの許可とか誰がくれるわけ?
そうは思ってみたもののこちらを見ている4人の視線に私は負けてすぐに治療を開始することにした。
まずはやるべきことをしなければいけないとパンドラボックスを開け大きな杯の状態の聖衣を持ち上げると星矢の元へと向かう。
「何をするんだ?」
「この杯の中で小宇宙を練り上げて小宇宙を高めるんだよ」
不思議そうに問いかける彼に安心させるために微笑む。
コップ座の聖衣は纏うよりも杯の状態になっている状態こそが真髄だ。
その時点で戦いに向いていない聖衣なのかが明らかだが何故か白銀なんだ。
私としては聖闘士としては微妙だと思うから青銅だと思うんだけどカミュが言うにはコップ座には白銀たる理由があるらしい。
今はそんなことはどうでもいいな。治療に専念すべく杯の中で小宇宙を練り上げ完成した小宇宙の渦を星矢へと上から流す。
物理的なものではない小宇宙の流れは星矢の小宇宙の流れを細いところを補強していく。
「身体がぽかぽかしてきた」
「流し込んだ私の小宇宙の働きだ」
身体の気を整えているのだから温かくなるのは当然だと思う。
とはいえ、太い流れはこれでは治らないんだよ。オマケにこの治療の効果が微々たるものっぽい。
予想よりひどい結果に内心でパニックになりそうだが、ここは余裕な態度というか師の教えのクールを発揮するべきだ。
「ふあぁぁ」
「眠くなったのなら眠ったほうがいい。それは君の身体が欲している眠りだから」
欠伸をした星矢の目の上に片手を置き暗くする。
「おやすみなさい。星矢」
そっと静かに囁けばしばらくして寝息が聞こえてきた。
手を離し眠ったことを確認して杯をボックスに戻し、さてカミュでも探して部屋で休もうとパンドラボックスを持ち上げたところで声がかけられた。
「星矢はどうなんですか?」
ああ、友達を治療したのに説明なしはひどいよね。でも、治療した直後で寝てるとは言えど当人居るしさ。
「説明が聞きたいのなら師カミュのところに行く道すがらで」
「それなら俺が案内しよう」
「お願い」
宝瓶宮を守護しているから聖域にいるのなら宝瓶宮に帰ってくるだろうと予測していた私だが氷河がカミュのところに案内してくれるらしい。
小宇宙を久々に高めて疲れた私としては大変助かることなので素直にお願いしたものの星矢を一人残していくのも問題だと思ったので紫龍少年を振り返り。
「問題はないと思うけど念のために彼を見ていてくれるかな?」
「ああ」
「ありがとう。紫龍、何かあったらすぐ駆けつけるからよろしく頼むよ」
頷いてくれた彼に礼を言って私はパンドラボックスを背負った姿で部屋を出て行く。
その後に続いて出てくる氷河と瞬って、瞬はいいけど氷河は前に行けという気持ちを込めてしばらく歩いた後に立ち止まり氷河を睨む。
「すまなかった。カミュに聞いた」
「……何を」
いきなり頭を下げられて謝罪された瞬間に思わずうろたえる。
「聖衣を授けられてすぐに偽教皇であるサガに目を付けられて戦いからも聖域の情報からも遠ざけられたって、それを知らずに俺は……」
あの多大なる誤解があるような気がするんだがまず偽教皇のサガさんとかどういう情報ですか?
一応、名前として教えられた双子座の黄金聖闘士がそういう名前だったような気がするけど偽教皇してたの?
そもそもどうしてそんな悪の親玉っぽい人に目を付けられることになったのかがサッパリわからないんだが、師匠がカミュだから?
人間って思ってもみないことを言われると何を言えばわからなくなるもんだね。
「星矢の治療は最低半年は続くよ。それまでは小宇宙は私に言われた時以外は高めないように言っておいて」
瞬に星矢の治療のことを言わなきゃって思ってたから氷河の言葉を無視しちゃう形で言っちゃったよ。
ああ、いきなりの話題転換に二人共呆れているじゃないか。
「氷河、私は戦いは嫌いだ。聖戦の時に私が居ても足手まといだったさ。聖闘士としては失格だろうけれどね」
なので別に目を付けられようとも平和に私が過ごせていられた原因だというのなら私は偽教皇に感謝だ。
私の平穏を命じてくれて、刺客をおくり込んでこなかったんだからね。
そういえば以前に聖域からの使者としてきた物騒な顔と名前していたデスマスクは元気だろうか。
ちょっとばかり物言いは乱暴な人ではあったが与えられた何事があっても待機の指示の確認に来たんだよね。
遠路遥々ときてくれたものだとお茶を出してもてなしたら私の様々な話、姉のちゃんの話とかも聞いて去っていった。
何も仕事を与えられずに派遣された聖闘士が不貞腐れたりしてないか確認しにきたんだろうけど調査員も大変だ。
「」
何やら沈痛な表情で今にも泣き出しそうな氷河。若いうちは感受性が高いというけど何が彼をそうしているのかは不明だ。
兄弟子が戦いは好きではないと堂々と宣言したこと?そうだとしたら改める気はないので諦めてほしい。
「そんなことはありません。僕も戦うことは好きじゃありませんから……」
聖域に居るので聖闘士だと思ってたけど実は違うのだろうか。
それとも自分と同じように流されるように聖闘士になったタイプか。
「辛い思いをしただろう。よく頑張ったね」
修行三昧の日々やら要らないのに聖衣を寄越す聖域に絶望感を感じたよね。
師匠や兄弟弟子が若干の常識知らずなのも教育を師匠任せな聖域の問題点だし。
お互いの健闘を称えて彼の手を握れば聖闘士なのにスベスベお手ての感触。修行しているから硬さはあるけどね。
「あっ、あの……」
「、何をしているんだ」
すべすべお手ての感触に放し難いと思っていた私に気付いたのか氷河が私の手を払った。
助かったよ氷河。流石に今後も来るだろう場所でホモ疑惑をかけられたりしたら救いようがない。
心は乙女なのよって告白しても寒いだけだ。
「氷河、カミュの元には私一人で行くから君達は星矢のところへ」
そう言って返事を聞かずに宝瓶宮へと向かう。2人で話をしながらあの部屋に戻れば今のこの瞬間のことは忘れてくれるだろう。
借り物とはいえどそこそこの容姿を持っているんだから手入れは毎日しようかな。
手の手入れは毎日クリームを塗ってるけど瞬には負けたし、もう少し本格的な手入れが必要だ。
美少年な瞬君の可愛らしい容姿とあのすべすべな手を思い出して何だか悔しい思いをかみ締めていたので途中で壁に寄りかかるように立っている男を意識せずに通り過ぎようとした。
「……何か?」
それが気に入らないのかどうかは知らないが通り過ぎようとした瞬間だけ男、少しばかり目付きは悪いが年の頃は自分と同じぐらいの少年がこちらを見ている。
「瞬達の治療をしたんだろう?」
彼らの知り合いらしい。年の頃は同じぐらいなので友達かね。
「星矢という子だけ」
「……そうか」
素直に答えたものの他の質問があるのかと思えば彼は背を向けて去っていこうとする。
「礼の一つもなし?」
普段であれば苛立ったとしてもこれぐらいどうでもいいかと流していたかもしれないが心に余裕がなかったらしくつい思ったことが口から出た。
振り返った少年はその鋭い瞳を細めたが文句を言うことなく。
「悪かったな。助かった」
「……いや、こっちこそ悪かった虫の居所が悪かったにせよ君に当たるのは不当だった」
もう少し言い方というものがあったように思うと息を吐き出して頭を下げた。
「それじゃあ」
カミュの近くにはアイザックもいるだろうし、聖戦の話をカミュに聞いて行方不明期間の話をアイザックに聞かないと。
ああ、そういえば貴鬼もまた会おうみたいなことを言ってたし会いに行かないと。星矢の治療が終わるまで聖域の近くにいることになるだろうから機会はあるよね。
今後の予定を考えていた自分の背中に突き刺さるような視線を故意に無視して私は宝瓶宮へと向かう。
星矢視点
度重なる激戦のせいで俺の小宇宙が流れる線とやらはボロボロだとムウに聞いた。
そんな俺を瞬達は無理に慰めようとはしなかったが傍に居ることが多くなった。
治るまでコイツら居るつもりなのかって思うとうっとうしいという気持ちと俺のせいで悪いという気持ちとかが湧きあがって頭の中がごちゃごちゃした。
お前らはもうほとんど治ってるのにどうして俺だけがこの身体を動かすことが出来ないだって責め立てても俺もコイツらもどうしようもない。
だから俺はいつもと同じように笑ってくだらないことに文句を言って兄弟達をからかったりした。
本当は治らないのなら俺を一人にしてくれって気持ちがあって沙織さんが見舞いに来てくれても嬉しいという気持ちだけでない自分が嫌だった。
男だというのにベットで横になっている日々が情けなくて堪らなくてだから俺を救い出してくれるヤツがいるのなら早く来てほしかった。
でも、そんなのは無理だって思ってた。黄金聖闘士であるムウのヒーリングどころか沙織さんの力でも俺は治らなかったからな。
ムウがいうには小宇宙の流れを精細に感じ、そのすべてを把握できるような人間でなければ癒すことは無理だろうといわれた。
アテナである沙織さんは小宇宙をまだそこまで使いこなせず、ムウはどちらか片方ならともかく同時にするのは難しいと言った。
そう聞いてしまえば俺は沙織さんが成長するまで数年はこうしてベットの中で過ごすのかと苛立ったが治るのなら我慢をしようと思ったのに、早く治さないと小宇宙の流れを元のように正常化させるのは難しいとか。
頭の中は話を理解したけど、どうすればいいのかごちゃごちゃして纏まらなかった俺に一つだけ希望が与えられた。
ヒーリングによる治療を得意とする聖闘士がいるという話で、そいつを俺の治療のために聖域に呼ぶという話だった。
聖戦の時にも、他の戦いの時にも見かけなかったヤツだからどんなヤツかは知らないが俺を救ってくれるのなら滅茶苦茶感謝する。
礼儀なんてあんまし気にしない俺だけどていちょーにおもてなしだってしてやろうと気合入れてたんだが、
朝からソイツを待っていた俺は貴鬼が入ってきたことで緊張の糸が切れて文句を言った。
その後に誰かが入ってきたようだがベットから見えない俺は聞き耳を立てていたら治療をしにきたヤツで氷河の知り合いらしい。
もうボロが出てるのでていちょーなおもてなしは出来ないが一応は身を起して挨拶しようと身体を動かそうとして入ってきたヤツが目に入った。
「女ぁ!?」
俺達と同じように日本人と思われる顔立ち。
日本語も流暢だし間違いはないと思うが一番に驚いたのは入ってきたのが女みたいなヤツだったことだ。
それはただ顔が綺麗だってだけでなくソイツがまとう雰囲気というものがそうだった。
「ちょっと星矢!仮面つけてないから女の人じゃないよ!」
「えー、でもよぉ。あの顔って……」
聖闘士ってヤツは結局のところ闘いの中に身を置いているせいなのか何か人とは違うってものがある。
それは戦いが嫌いだという瞬にもあるものだというのに入ってきてヤツはそんなものを感じさせなかった。
パンドラボックスを背中に背負っているのだから聖闘士ではあるのは確実であるのに、入ってきた女みたいな男は本当にごく普通の人間に見えたんだ。
そのせいか俺はコイツに傷つけられる心配とかはないなって思ったんだけどよ。同時にコイツが俺を治せるのかって不安になった。
俺の不安なんて気にした様子なくソイツ、クレータのと名前まで女っぽいヤツは俺を診察……の小宇宙が俺を包んだ。
ちょっと冷たい感じが氷河の小宇宙と似ていてカミュの弟子であるということに少し納得したが、冷たい小宇宙で治療って出来るのか?とか考えていた俺は身体の隅々まで流れ込んでくる高められた小宇宙に驚いた。
確かに最初に通っていく小宇宙は冷たいがそれは俺の中に滞っていた何かを押し出し、その後にコイツの小宇宙が通ったそこは温かなもので満たされていく。
「身体がぽかぽかしてきた」
「流し込んだ私の小宇宙の働きだ」
思わず出た呟きに唇の端だけ上げて笑う様子が見えた。
氷河みたいにかっこ付けかよって思ったけどそれが綺麗に見えたのは何でなんだか。
「ふあぁぁ」
身体が温かくなったら眠気が襲う。
「眠くなったのなら眠ったほうがいい。それは君の身体が欲している眠りだから」
でも、もう少しあんたと話したいと告げようとした俺の視界が暗くなる。
「おやすみなさい。星矢」
思ったよりも柔らかな手の感触と静かなその声に俺の目蓋は重くなる。
身体が思うように動かなくなってからはじめて感じる心地良い眠りへと俺は落ちていった。
氷河視点
1年以上も前に聖闘士となりそれ以後会わなかった兄弟子。
アイザックが行方不明になった後に届いた一通の手紙は俺を心配していることとアイザックがどこかに無事にいるはずだと書かれていた。
その手紙に俺は何も返事が出来ないままカミュ経由で届いた手紙であったがゆえに彼の行方はわからなかった。
……手紙の内容からはアイザックが行方不明になったのは俺のせいだと知っているのかどうかはうかがえなかった。
そして、俺がカミュやアイザックと戦ったという事実を今の彼が知っているのかも解らない。
知っていて変わらぬように接してくれているのか、知らないからこそ弟弟子として接してくれているのか。
治療をする聖闘士が来るとは聞いてはいたがそれがだとは知らされず、いきなりの再会に戸惑う俺をおいて星矢の治療をする彼の背を見る。
大きな杯の中で渦巻いている小宇宙の錬度は恐ろしいもので会わない間に彼がどれだけの実力を身につけたのかを伺えさせた。
そのが聖戦に参加しなかった理由を後に聞いたがそれでも彼が居たらどれだけ心強かったことだろう。
アイザックと同じ俺よりも素晴らしい素質を秘め弟子達の中で最初に聖闘士それも白銀となった兄弟子は何だかその綺麗さを増したようにも思えるのは離れていたからなのか。
俺が知らない間の彼に何かがあったのだろうかと思うと不安になるのは何故なのか。
だから俺は瞬に星矢のことを説明するというともう少し居たくてつい口を開いてしまった。
「それなら俺が案内しよう」
「お願い」
案内など必要ないだろうには頷くと紫龍に星矢のことを頼んだ。
カミュに会う前にまずは星矢の治療を優先したようで変わらず兄弟子は優しいという事実にほっとする。
この兄弟子であるのならば俺がしたことを知っても変わらぬ態度をとってくれるはずだ。
そう彼を信じているのに不安になるのはそれだけ俺がこの兄弟子を大事にしている証だ。
カミュ、アイザック、、俺と4人で居たあの日々が輝かしくて大切だからこそ不安になったんだろう。
「すまなかった。カミュに聞いた」
そして、どうして助けに来てくれないのかと恨んだ事実もあった。
それを都合よく忘れることは出来ないと俺が謝罪の言葉をはけばは目に見えてうろたえた。
「……何を」
「聖衣を授けられてすぐに偽教皇であるサガに目を付けられて戦いからも聖域の情報からも遠ざけられたって、それを知らずに俺は……」
だが、俺のその言葉に偽教皇からの仕打ちを思い出したのだろうの瞳が俺ではない何処か遠いところを見つめた。
前途有望な白銀聖闘士である彼を無意味に待機させ、指示があるまで何もするなと言われた日々を。どれだけこの兄弟子は悔しかったことだろう。
アイザックが行方不明になったと聞いても戻ることは敵わず、カミュの死により彼の居場所を知る人間は居なくなった。
それでも彼は指示を守ったという。聖域より指示があるまで待機せよ。何と不確かな指示であったことか。
「星矢の治療は最低半年は続くよ。それまでは小宇宙は私に言われた時以外は高めないように言っておいて。氷河、私は戦いは嫌いだ。聖戦の時に私が居ても足手まといだったさ。聖闘士としては失格だろうけれどね」
矢継ぎ早に瞬にそう言い付けるとは俺に自分は聖闘士失格だといった。ああ、彼は聞いているのだ。
聖域の命を受けたカミュと俺は闘ったという事実を。そして、その命を受けても彼は自分にはその使命を果たせなかっただろうと。
私情を挟むのは聖闘士としては失格かもしれないが兄弟子のその優しさをどうして俺が詰れようか。
「」
感情の赴くままに兄弟子へと手を伸ばそうとした俺より先に動く人間が居た。
「そんなことはありません。僕も戦うことは好きじゃありませんから……」
「辛い思いをしただろう。よく頑張ったね」
神妙に告げる瞬の言葉に同情したのか兄弟子は瞬の手を握る……待て、そこは空気を読んで俺だったと思うんだが?
「、何をしているんだ」
そう思っての手を払った。
「氷河、カミュの元には私一人で行くから君達は星矢のところへ」
「、俺が案内を……」
そのまま立ち去ろうとするその背に声をかけたものの聞こえていないのか無視されたのか去られてしまった。
彼の背をぼんやりとの眺めていた俺の背後で小さく笑う声が聞こえて振り返った。
「氷河ってカミュやアイザックだけでなくのことも好きなんだね。でも、ちょっと解る。は兄さんとは違うけど安心させてくれる空気をもってる人だね」
兄弟子を褒められたのは悪い気はしないがコイツのお陰で俺はとあまり話せなかった。
その事実にそっぽを向いて俺は星矢達がいる部屋へと戻るべく歩き出したが、未だに何故か笑っている瞬に苛立つがクールな俺はそれを無視する。
???視点
弟達の治療はほぼ順調であるとは聞いていたがその一人である星矢に問題が起きたらしい。
母親が一緒なのは瞬だけだが父親だけだとしても血の繋がった弟である彼のことも多少は気にかけている。
平和になった世の中でどうなったのかと確かめに来る程度には……。
ただ確かめに来た聖域で瞬の手を握る見知らぬ男に苛立ったのは計算外だった。
そして、その男が瞬と氷河という二人と別れてこちらに真っ直ぐに歩いてきた。
パンドラボックスを持つ男は十中八九、聖闘士であるだろう。
そんな男なのだ俺の一瞬の苛立ちに何かを感じてこちらに来たはずなのに男は俺に意識を向けようともしないのはわざとらしいほどだった。
男の冷めた瞳に俺は映らない。一応は確かめに来てみたが俺で興味がなくなったのか?そう考えた時に思わず殺気を飛ばした。
すぐさま反応した男の動きは見事で、その強さは青銅如きではないだろうとうかがえる。白銀それもその実力はかなり高い。
「……何か?」
「瞬達の治療をしたんだろう?」
瞬と話していたのでカマをかけてみれば男は頷き。
「星矢という子だけ」
「……そうか」
意外なほどに素直に俺の問いに答えた男に先程の俺を無視しているのかと思ったのは勘違いだったかと背を向ければ声が追ってきた。
「礼の一つもなし?」
「悪かったな。助かった」
確かに殺気を飛ばして足止めしたのに礼の一つもないのは問題かと謝れば男は唇を歪め、きっと笑ったのだと思うが冷めた眼差しは変わらなかった。
「……いや、こっちこそ悪かった虫の居所が悪かったにせよ君に当たるのは不当だった」
俺を無視したのはやはりわざとだったのかとは思ったが俺が当たられる心当たりとしては瞬の手をコイツが握っていて怒りを向けたからだ。
遠めで見た時に男とだけしかわからなかったが近くで見ればこの男自身も綺麗な顔立ちをしている。
「それじゃあ」
俺が黙ってみていたからか男はそう言って十二宮がある方向へと歩き出した。
あの瞳に思い当たることがあった。大切な者を失いその大切な者に手が届かない嘆きの瞳。
だが、俺の瞳には彼の瞳の中にそれだけではない輝きもあるように見えたのは気のせいか。
彼の背をみていたとこで見極めることは出来ないだろうがその背が消えるまで俺は彼を見つめ続けていた。