貴婦人の主張


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本来、私達の主張がどうあれ身分証もない不審人物でしかなかったのだが、色々とした要因が重なり私達は同行することとなった。
最初にマリィが弟であるガイとセントビナーの宿屋で話し合いをした後、ガイがルークに謝るということがあった。その後ろで微笑んでいるマリィが何を言ったのかは私のあずかり知らないことである。
二人きりで話し合いたいのだという言葉に私は部屋を追い出され、護衛代わりとしてルーク達の部屋に居たのだが居心地が悪そうだったルークに、セントビナーの歴史やら何やらを語れば興味深そうに聞いてくれていた。
その時にこっちのと違って、お前は嫌味じゃないんだなって真顔で言われた時の脱力感が半端なかった。
本来のジェイドとは違うということを受け入れて行動していたので、重要そうなこと以外は忘れていたために何をしたのか聞いた時には胃が痛くなった。
こちらの世界のピオニーは何を考えて彼を使者としたのだろうかと遠い眼をしたのだが、それを憐れにでも思ったのかもう気にしていないとフォローしてくれたルークに謝罪するしかなかったよ。
彼がマリィ達が何を話しているのか気にしたので、今後のことを話しているのではないかと言えば彼の中ではもう私達が今後の旅のメンバーとして含まれていたことにちょっと感動させられた。
不審者でしかない私達をガイの姉とその友人だし、強いみたいだから護衛として雇うと言ってくれたりと気に入った相手には彼は優しいようだ。
旅支度らしいものをもっていなかった私達はセントビナーで旅支度を整え、私のほうはといえば軍服をジェイドにとられた。こちらの軍服と同じ物であるのか念のためにっと回収されたのだ。
確かに軍服の青さ特殊な染料で染められているものなので本物かどうかは確かめたかったのだろう。しかし、いくら軍服だろうと洗ってもいない服を男に持っていかれるとか何ともいえない気分にさせられた。
その後は軍服を差し上げた変わりにセントビナーからカイツールへと向かう道中はマクガヴァン氏からの助力を受けるように要請し、フーブラス川までの馬車を用意してもらった。
護衛としてマルクトの兵をとも言ったが、目立たぬために必要最低限の人数と言われたので私とマリィ、アリエッタが増えた以外に本来のメンバーとは違いはなかったが苦労はしていない。
道中は魔物の多くはアリエッタの説得により戦闘は回避されていたからだ。仕方なく戦う時もあったがガイとマリィが前衛として戦っていたので私の出番はほとんどなかった。
一番強い私はルークの護衛ということでその数少ない戦闘に参加していなかったためだが、何故かジェイドとティアに注意を受けた。
二人にルークが貴族であることと、私が彼の護衛である事実と同じくルークの護衛であるガイとマリィが戦って守る必要のないジェイド達を守っているのだから、守られる側から文句を言われる筋合いはないといったことを伝えればジェイドのほうは納得した。
ティアのほうが納得しなかったのが、次の日から不満そうだがティアから文句を言われることはなくなった。マリィへと視線を向けるティアの少し青ざめた顔が印象深かった。
そういえば深夜番としての三交代で女性恐怖症のためにガイはジェイドと組み、私はアリエッタと組ませてもらった。必然として組んだマリィとティアに野営時に何かあったのかもしれない。
表面上でも大人しくなったティアに面倒がなくなって楽だと思った私は薄情な気もするが、マリィ以外の人に対して今のところは強い思いいれはないのだから仕方がない。
「なぁ、マリィ。俺も戦えるぞ」
「はい、それはわかっております。ルーク様の剣の才は素晴らしいものがありますから」
夫と同じ剣術を修めているルークに気づいているのだろうマリィだが、誰に習ったのかという質問はしていない。
私達の世界ではフェンデ卿は誰にもその剣術を教えてはいないのだ。それを知る彼女ならおかしいと感じているはずなのに……
「なら次に魔物に襲われた時は戦ってもいいだろ?」
「なりません」
耳に届いたのはこの道中で何度か繰り返された話題であるようだ。ガイに護衛としての心得を言い聞かせ、雇われたとなると弟以上にルークを優先させた。
久しぶりに会えた姉のそんな態度にガイはといえば、流石は姉上などと呟いていたので問題はないようだった。
「うぅ、マリィ達のこと護衛として雇ったのは失敗だったか?」
「そう言うなよ。ルーク」
きっぱりとマリィに断わられたルークが肩を落としたところに声を掛けたのはガイだ。
使用人として相応しい振る舞いをするとマリィに誓ったらしい彼だが、旅の同行者達しかいないような時には普段どおりで話せっというルークからの命令がある。
今までの付き合いもあるのでっとそこは折れるようにマリィを私からも説得し、旅の間は現状維持を保っている。
フーブラス川までの馬車の時には御者がいて、ガイは使用人兼護衛としてその時は如才無く振る舞っていたので彼女も許しているのだろう。
もしも、御者の前で下手なことをしていたら何を言われようともマリィは納得してみせなかっただろうという気もする。
「俺は臆病者じゃねぇのに」
ティアが静かになったとはいえ、戦闘に出ないルークと私に対してキツイ目で見るので気にしていたらしい。
「ルーク様、私達は貴方が臆病者などと思ってもいません」
落ち込んだ様子の彼にマリィが優しく声を掛け。
「俺達はお前の護衛なんだからお前のために戦うってだけなんだよ。ほら、考えてみろ?例えばお前が料理をするとなれば屋敷の料理人は必要なくなる。そうなると料理人は暇を出されて職を失っちまう。そうなると給料がもらえなくて大変だろ?」
「何となくわかったような、わからないような」
屋敷に閉じ込められていた彼からすれば、立場の違いなど曖昧なものだろう。
権力だろうとなんだろうと力の便利さ、理不尽さ、恐怖などを理解する機会などなかったはずだ。
「ルーク様、もうすぐカイツールですしその件についてはまたの機会にしましょう」
普段の移動時には一番強いということで殿を任されている私はルークへと後ろから声を掛ける。
本来であれば許されないような無作法さなのだけれど、旅の間はいいとルークに許されているので甘えさせてもらっている。
「またの機会って言ってもなぁ」
屋敷に戻ればまた外に出る機会などしばらくないと考えているようだった。そうではないのだと彼が知る時も私達は彼の傍にいるのだろうか?
早く帰りたいという気持ちはあるが、彼を孤独とするだろう運命の元に置いていくのも嫌だ。
ただ一つだけ決まってるのは私は今できることをするというだけだ。この一瞬後に元の世界に戻ったとしても後悔しないように……



「ルーク様っ!」
「うわっ!」
マリィの切羽詰った声と同時に金属と金属が強く打ち合わされた音が響く。
ルークの頭上で光を反射した刃を見た時に私は咄嗟に彼に体当たりし、剣を受け止めていた。
「ルークっ!大丈夫か!」
私自身の視界では確認できないが強く押されて倒れたルークをガイが立たせているらしい。
マリィもルークの傍にいるらしいので、私はルークを襲ってきた相手へと集中することにする。
「邪魔をするなっ!」
落下してきた相手の剣を槍を横にして受け止めたことで痺れる両手だが、そんなことを悟られないように私は挑発するように笑い。
「おや、私からすれば邪魔者なのは貴方のほうなんですがね?」
「何だとっ!」
後ろに飛び再度、こちらへとかかって来ようとしたのは六神将鮮血のアッシュと呼ばれる見事な赤毛を持つ人間だった。
私の知るルーク・フォン・ファブレとは全く違う振る舞いを身につけた少年。
「退け、アッシュ!」
「……ヴァン」
横手から現れたのはヴァン・グランツ、この世界のラスボスだった。
「どういうつもりだ。私はおまえにこんな命令をくだした覚えはない。退け」
身を翻して去っていくアッシュだがそれを止める人間はいない。
本来であればこのあたりを警護している兵が、対処するべきなんだが何が起きたのか未だに理解できていないのか動きは無い。
もしくは神託の盾だからと静観する構えかもしれないが、検問所の前での不祥事に介入しないのは問題だ。
「師匠!」
怪我らしい怪我はないようでルークが喜々とした様子でヴァンへと声を掛けた。
「ルーク。何も出来ないとは無様だったな」
「ちぇっ、会っていきなりそれかよ……」
久しぶりに大好きな師匠に会えたのに注意をされて剥れるルークだったが、その背後にいるマリィの様子のほうが私には気になった。
俯き身体を震わせているのは、本人ではないとしても愛する人と同じ姿のヴァン・グランツと出会ったからだろうかと心配で視線を向けていると。
「……ヴァン!」
武器を構えて叫ぶティア。
「ティア、武器を収めなさい。おまえは誤解をしているのだ」
「誤解……?」
妹の行動に諭すように声を掛けた彼は戸惑った様子のティアに畳み掛けるように。
「頭を冷やせ。私の話を」
「貴方の話に聞く価値はあるのでしょうか?」
絶対零度とでもいうかのような冷たい声がティアへと話しかけてヴァンの言葉を遮った。
「誰だ。無礼ではないか」
声を荒げなかったのは流石とは言えるが、今この場においてそれは正しい行動ではなかった。
表面上では柔らかな笑みを浮かべたマリィがルークの後ろから、ルークをヴァンから守る位置に立ちその手は剣の柄に置かれていた。
そんな彼女の姿を目に留めた男の瞳が見開かれる。
「無礼?無礼者というのは貴方自身ではありませんか!ヴァン・グランツ」
青いその双眸に映されている男の気持ちをうかがうことは出来ず、沈黙が続く。
「おいマリィ、師匠に……」
「シッ!ルーク。今の姉さんに逆らうな。姉さんは人を叱る時はフルネームを呼ぶ癖があるみたいなんだ」
最初に口を開いたのはルークだったが、すぐさまその口を塞いでマリィから離れたガイの素早さは凄いものがある。
しかし、ヴァン・グランツとマリィが呼んだのはどういった意味があるのだろうか?
神託の盾に所属しているから呼んだのか、彼女の夫ではないからそう呼んだのか。
「……姉さん?マリィベルなのか?」
ガイの言葉が聞こえたのは私だけではなかったようで、呆然とした様子でヴァンが呟いた。戸惑うようなその声に私は戸惑いを感じた。
知識として知るヴァン・グランツであれば今の段階であれば表面上は受け流すだろうに……
ティアのほうは「納得ね。兄さんの知り合いだから私の名を……」とか聞こえてきた。野営の時にティアの本名で叱ったっぽい。
「私のほうが年上ですが姉さんと言われる筋合いはありません」
見た目からは髭をはやしているせいでヴァンのほうが明らかに上なので、彼がマリィを姉とか呼べば違和感しかない。
「えっ、マリィのほうが上って嘘だろっ!」
わざわざ、ガイの手をどけてまでルークが叫び。
「えぇっ!本当ですかぁ?」
「おやおや」
「嘘っ」
マリィ達の年齢を知っていたガイをのぞいて意外そうな声をあげている彼らに、ルークが襲われたというのに悠長なことだと息を吐く。
ルークに怪我があれば、和平だとか普通は言ってられなくなるとか考えたりしないのだろうか? マルクト側での怪我とか言い訳も出来ないというのに。
「では、マリィと呼んでも?」
「お好きになさって」
「……私が君に何かしたのか?」
流石はかつての主従関係ということなのかマリィの癖のことは知っているようだ。
「自らの立場を理解できていない貴方を私は許せないの」
「私が神託の盾に……」
「貴方の行いを言ってるのよ」
彼がマルクトではなく神託の盾にいることは経験済みなマリィはものの見事に流した。
「私の行い?」
「自らの部下がルーク様を襲ったのよ?それを差し置いてよくもルーク様に師として振る舞えるものですね」
怪訝そうなヴァンの声にマリィが一歩踏み出して言った。
「私が命じたわけでは……」
決して大きな声ではないのに迫力のある彼女に気圧されたのかうろたえたのかヴァンが後ろに下がった。
「それがどうかいたしましたか? 貴方の部下がキムラスカの王位継承権を持つ方を襲った。私達が知る事実はそれだけです」
「実行犯である六神将の鮮血のアッシュを咎めもなく逃しましたし、それが通用すると考えていらっしゃるのならキムラスカを軽んじる行為ではありますね」
アッシュが捕まるのはこちらとしても面倒なことになりそうなので、彼が逃げたことは問題ではないが堂々と犯人を逃したのはいかがなものだろうと言えば睨まれた。
やはり彼はマリィに何かしらの思い入れがあるようだ。それが十年以上経っているはずなのにヴァンという男を戸惑わせているのだと私に向ける冷たい視線で気づくことができた。
は事実を言っただけよ。ヴァン、ここまで聞いて何をするべきかわからないとは言わないわよね?」
「……ルーク様、私の部下が過ちを犯し申し訳ありませんでした。今回のことは私の……」
一瞬目を閉じた彼はルークへと向き謝罪を述べ始めた。
「うえっ!師匠が謝る必要はねぇーだろ!」
謝罪にルークが驚いて叫ぶようにヴァンの言葉を遮った。
「もう俺は気にしてねぇーから、マリィも気にするなっ!」
「ルーク様がそうおっしゃるのであれば」
納得なんかしていないといった風情ではあるがマリィはルークの言葉に頷いた。
「いいのか?」
仕える者である彼女が、主の言に対して従っただけなのだがマリィがすぐさま納得してくれると考えていなかったらしいルークが意外そうに彼女を見ている。
「私はルーク様に仕える身です。主の望まぬことは致しません」
「嘘付け、それなら戦わせてくれても……」
「護衛としてルーク様を戦わせるなど出来ません」
護衛関連についての決定は覆す気はないらしいマリィには取り付くしまもない。
「ルークの護衛?」
ガイを主としていたとしても、彼が生まれるまではマリィに仕えていたのだろうヴァンからすればレプリカと自らの下に見ている対象に護衛としてマリィが仕えていることが以外だったようだ。
「ええ、そうです。私は『ルーク様』の護衛です」
ルークのことを呼び捨てにしたことの抗議を込めてか大きめな声でルークの名を言うマリィ。
「師匠、マリィは強いんだぜっ!ガイと同じ流派の剣を使うしさ!」
「……そうか」
マリィへと向けていた視線を話しかけたルークへと向けたが、ヴァンの瞳に温度はない。よくそれで周囲の人間を騙したものだと思うが、こちらに来てからの非常識のオンパレードに私も感覚が麻痺してきたような気がするのでこれが普通とか誤解しそうだ。流石にソレはないか。
「俺の旅の話を聞いてくれよっ! 師匠」
「いや、私は……」
「聞いて下さいますともルーク様! お守りすべき導師がいらっしゃいますし、先程の無礼にもほどがある出来事を水に長そうという心遣いを見せたルーク様の心遣いを無碍にするような方ではありませんわ」
断わろうとしたヴァンの言葉をわざと遮ってマリィがルークへ言い。その後にヴァンへと振り返った時の笑顔は恐ろしいものだった。
アッシュの襲撃を退けていたせいでヴァンに近いところにいたせいで私にも余波が来てしまった。ちょっと鳥肌ができた。
「ルーク様とのお話の後にでも、私は貴方達のことを聞きたいの」
「ああ、わかった。その……あちらの宿屋に部屋を取っているのでそちらに場所を移したらどうだろうか?」
アニスの「わぁ、夜のお誘いですかぁ?」などという能天気な言葉が聞こえたが、私は決してそんな艶っぽいことではないと断言できる。
夫と同一存在であろうとも遠慮なく言いたいことを彼女が言うつもりなのは間違いない。別の世界だからと自重する気はないだろう。
ラスボス相手に世界の現状を語る可能性があるが、それが良いことなのかどうなのかの判断はつかない。
「どうした?
無意識に額に手を当てた私に気がついたルークが近づいてきて。
「頭が痛いのか? 師匠が言う宿で休もうぜ」
頭痛を経験しているからか私の行動で頭が痛いのではないかと心配になったらしい。
腕を取り宿へと連れて行ってくれようとするルークに大人しくついていきながら、本当に今夜は頭が痛くなる事態になりそうだとうな垂れ。マリィに彼との会話を聞かせてもらえるように頼むか、それとも私達の世界を彼には教えないように言おうか。どうしようかと頭を悩ませたが、それは要らぬ心配だった。



カイツールの宿屋に私達は一泊することになった。ヴァンもルークとの会話が長引き同じ宿屋に泊まった。
その夜、ヴァンを部屋に呼び出したマリィが彼に一番に注意したことは彼の妹であるティアの教育についてだった。
自分が養育したわけではないというヴァンからの発言もあり、子どもについての教育の重要性をマリィはティアも巻き込んで早朝まで語っていた。
私はマリィと同室であったのでその間、彼女達の会話を聞いていたが、その途中でティアからの助けを求める視線に負けマリィの彼女への矛先をヴァンへとすべて向けてしまったが、妹を助けることができて兄も本望だっただろう。
「兄さんの犠牲は忘れないわ」
っと、ティアがマリィの説教に消耗しすぎたのかヴァンを犠牲だと真顔で言っていたのは印象深い。
そして、こちらのヴァン達へマリィが言いたいことが多すぎたせいか私達の事情のほうはヴァンに言う暇もなかったのはよかったのか悪かったのか。
あれ?昨日も似たようなことを考えなかっただろうか? と、寝不足気味な脳で朝日を浴びながらそんなことを思っていると。
朝の日差しの中で煤けた背中のヴァンの背中に何を思ったのか彼を見ていたルークが言った。
「師匠にも弱いもんがあったんだなぁ」
尊敬する師匠の意外な様子に幻滅はしていなかったようだが、若干の哀れみがその瞳にふくまれているような気がする。
「完璧な人間なんていませんよ。だからこそ人は努力し続けることが必要なんです」
「何が言いたいんだよ」
私の言葉に説教でもされるとでも思ったのか不機嫌そうに答えた彼に微笑み。
「この世界には知らないことはたくさんあります。その中にルーク様が好きになれるものがあるかもしれません。それを知らないままにするのは勿体無いでしょう?」
屋敷という小さな世界に居た彼に世界を知って欲しいというのは、私のエゴだ。
何も知らないままで居たほうが幸せなこともあるだろう。でも、中途半端に知ってしまったからこそ彼は苦しむのだ。
「そうかぁ?」
「私はそう思います。ルーク様が知りたいと思ったときは私に聞いて下されば出来る限りお教えします」
どのような時に知ろうとも事実は彼に重く圧し掛かるだろう。それを最悪に近いタイミングで知った彼は自我の崩壊を招いた。
その変化は他者、ルークの周囲に居た人々にとっては歓迎すべきものであったために受け入れられる。それは今の彼の死と同じではないだろうか?
「まぁ、何か知りたいことがあったらに聞く」
「はい」
私の言葉に照れてそっぽを向いた彼はこれから変わっていくし、変わっていかなければならない。
その変化していく先が少しでも良い方向であってほしい
「ルーク、出発するぞ」
「おうっ!」
ガイに声を掛けられたことで私の傍からガイの方へと向かう彼の背で赤い髪が揺れる。
「それと、ここから先は俺は使用人として振る舞うことになるからな」
「わかった。マリィ怖いもんな」
「あぁ……あっ!いや、姉さんは優しいんだぞ」
「でも、怖いぞ。師匠も敵わないみたいだし」
二人がマリィのことを話す様子に知らず知らずに笑みを深める。
どうか彼らの今の関係が壊れてしまいませんようにと私はただ願う。





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