秒読み聖闘士


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体力が落ちない程度に身体を動かしている最中に名前を呼ばれたような気がして振り返ると金髪長髪なガタイのいい男性が私を真っ直ぐに見ていることにすぐに気がついた。
目が合ったのはカミュと同じく何だか目が逸らせない雰囲気というものを彼が持っているからだ。彼は私を知っている様子だがいつ会っただろうか?と、思考を巡らせる。
聖戦が終わり三ヶ月ほど経った頃に蘇ったカミュに聖域へと呼ばれた自分が到着したのは一週間ほど前で知り合いらしい知り合いはまだいないし、その前の生活はシベリアで修行という名の引き篭もり生活だった。
聖戦前にアイザックが行方不明になり、二人で競って氷河に負け聖闘士に私はなれなかった。
氷河は私が聖闘士となれないことに罪悪感めいたものを感じているようだったが私は内心では万歳三唱だった。後にキグナスの聖衣をまとった姿を見た時にその思いは強くなったしね。
白鳥ってことだし確かに白鳥なんだけど、ちょっといやかなりアヒルっぽいとかタイツを瞬時にまとうのとか嫌だとか色々と考えつつも似合っていると氷河には言った。バレエみたいな動きをする氷河に似合ってはいたし。
氷河が技を見せてくれたがダンスにしか見えなくて笑いを堪えるのが大変だったな。きっと、笑ったりしたら技の対象が自分になると思って耐え切ったけど。
「やはりか。その小宇宙には覚えがある」
「……っ!」
脳内で氷河がダンスを踊り始めて思い出し笑いをしそうになった時に話しかけられて息を詰まらせた。
そういえば見知らぬ人に名前を呼ばれていたんだった。少し離れた位置に居たはずの人がいつのまにか近くに居るがここは私としては人外認定な聖闘士達のたまり場なのでよくあることだ。
「ああ、さすがに覚えていないか。お前をカミュのところへ送り届けた者なんだが……」
カミュのところへと送り届けたという言葉にこの世界で私を意識してすぐ傍に居たのはカミュ達ではなかったことを思い出す。そう確かその人の名前は……
「アルデバラン?」
「ああ!そうだ。覚えていたか」
嬉しそうに笑う男の笑顔は男臭いがここは男社会も男社会過ぎる場所だし、ここまでほがらかに笑われれば悪い気はしないが数年のうちに随分とガタイがよくなったものだと思う。
あの後に成長したんだろうけど彼から声をかけられなければ私はきっと気付かなかったよ。けどアルデバランは黄金聖闘士の一人ということは聞いたことがあるし、変わったという話は聞いてないので訓練生でしかない自分のことをよく覚えてたと感心する。
「久しぶりだな」
見上げるだけでも首が痛くなりそうな身長差の相手だが年長者の顔を見ないのは失礼だろうと見上げる。
「はい。お久しぶりです。私は師カミュがより聖域に来るようにと」
「アテナをお守りするために聖闘士やその弟子の多くが聖域に集っている。カミュもそのためにお前を呼んだんだろう」
戦いの女神アテナ、地上に居る現人神であり聖闘士達が仕えるべき存在というか聖域に関わる人々の頂点。アテナがいない時は教皇が一番上だけど結局のところ教皇は聖域を束ねる存在でしかなくアテナと教皇を比べたらアテナのほうが軍配が上がる。
だというのに聖戦前にアテナと一戦をやらかした偽教皇とそれに騙された黄金聖闘士を筆頭にした聖闘士達とか話をきいた時には開いた口が塞がらなかった。
カミュが亡くなったのだと氷河から直接知らせを受け、理由を聞いた時だったがカミュの死を悼む気持ちは嘘ではなかったがカミュから聞いていた聖闘士の頂点のあまりもの失態ぶりに信じられないと呟いてしまった。
それに勘違いしたのか師を殺めてしまったということに落ち込んだ氷河の気持ちを浮上させるのには苦労した。聖闘士とか聖域関連については麻痺していたし、生き返ったのなら問題はないと慰めたけど、それは終わった形で話を聞いたからこそ言えた言葉だ。
目の前でカミュ達が本気の戦闘を始めたりしたら説得とか考える前に逃亡しただろうし、結果がどちらかの死であれば気に病んだろうし、兄弟子と弟弟子の対戦時も傍に居なかったのは運がよかったと勝手ながらに思う。
アテナに仕える聖闘士とそうでないからこそ起きた二人の闘いも氷河の勝利だったらしいので、聖衣を争った私が生きてることにはアテナではない名も知らない神に感謝しといたが次の標的は自分かもしれないとシベリアを離れた。
その間に聖戦してたらしいけど瞬間移動で移動が楽々だった私は修行と称して世界一周な勢いで様々な国を観光しつつ人助けして感謝され謝礼もらって快適な旅をしていたのにどうやって見つけたんだろう。カミュ。
「……」
思わず焦点の合わない遠い目で空を見上げる。エジプトでピラミッド巡りを楽しむ前にカイロの博物館前で会った時は驚いた。
目の前にはカミュにしか見えない人間で暑かったというのに一気に背筋が冷えた。修行しない不甲斐ない弟子に喝を入れに現れたのかと怯えたんだけどね。
「理由はきいていません」
聖域に向かうという言葉だけで説明もなしにここに連れて来られた私は黄金聖闘士であるカミュどころか聖域全体が忙しくて放置されてる。
これで多少は落ち着いたところらしいから、もっと前に来ていたらご飯も食べられないぐらいの放置っぷりだったかもしれない。
「きかなかったのか?」
「それは……」
「アルデバランッ!」
死んだはずのカミュが生きてることに驚いていて話をきくどころじゃなかったと説明をしようとした私の言葉は遮られた。
聞き覚えのない声だとは思ったが声の主は私ではなくアルデバランに用があるようなのでそちらへと行くだろうと思ったのに彼は手を挙げ。
「久しぶりだな!アイオロス、アイオリア」
彼が呼んだアイオリアという名前には黄金聖闘士として聞き覚えがあったけどアイオロスのほうに覚えはない。
「ああ、久しぶり。任務から戻ってきていたんだな」
「珍しく時間がかかったな」
視線を向ければ声と共に歩いてくるのはよく似た顔立ちの二人だ。下手すると双子にしか見えないほどに似ているし服装も似たような感じだけれど片方は額に布を巻いているし、近づいた距離で歳が違っているよう見えたので普通の兄弟っぽい。
アルデバランほどではないが彼らも背が高いので日本人として平均的な身長しかない自分には羨ましすぎる。天は二物を与えずって聞いたことあるけど嘘だね。
この三人ともが好みは問題はあったとしても美醜としてならば顔立ちいいし、聖闘士は少なくとも母国語とギリシャ語と英語を話せるように教育されている。
聖域という特殊な環境化のせいで常識には少し首を傾げるところはあるけど、常識などところ変わればってもので聖域では彼らは憧れの対象だ。
そんな黄金聖闘士が二人もここに居ることが少し居心地が悪い。今居る場所が十二宮ではなく訓練場であることに訓練生としてそれなりに身体を動かそうと考えた自分が憎い。
「彼は?」
よく似た二人のうち若いと思うほうが私へと視線を向けて興味深そうな視線を向けてきたが不躾と感じない。
ただ見られると悪いことをしたわけでもないのに曖昧な笑みを浮かべてしまうのは日本人ゆえのくせというものか。
「カミュの弟子のだ」
です。よろしくお願いします」
アルデバランが二人に私を紹介したので挨拶をした。頭を下げたくなったけどお辞儀の習慣はあまり海外ではなさそうなのでしないでおく。
「へぇ、他にも弟子が居たのか」
「兄さん……俺は獅子座のアイオリアだ」
年上に見えるほうが兄と彼のことを嗜めるように呼んだ。これほど似ているのに見た目が逆転している兄弟とは面白い。
「射手座のアイオロス、よろしく。!」
その言葉と共に差し出された手を反射的に握れば力強く握り返されて振られた。
ちょっと痛いんですけど、この人を何とかしてくれないだろうかと助けを求めて視線をアルデバランへと向けたが無視された。
「射手座?」
射手座、カミュに教えられた黄金聖闘士の中で唯一教えられなかった存在。ただ聖域を裏切ったと一言だけ語られた射手座、獅子座と兄弟のようだし実力はありそうだから彼は新しい射手座?
「14年前に死んだんだが今回のことで蘇ったんだ」
14年前ということは新しい射手座ではなくカミュが言った裏切り者と教えられた射手座当人かな。
ここに居るということは裏切っていなかったということ?いや、聖域を巻き込んでの裏切り騒ぎを引き起こした人も蘇り組らしいしアテナに許された人とか?14年前の裏切り者を復活させる意味ってあまり感じられないけど……あっ。
「アテナを救った方ですか?」
疑問系で聞いておいてなんだけど確定だろう。氷河にカミュとの死闘の話を聞いた時に少しばかり出てきた名前だと思い出したからだ。
カミュの死を知ったお陰であの時の話の内容とかはだいぶ飛んでしまったけれどアテナを救った彼のことは辛うじて残っていたらしい。
誰かは忘れたが彼と同じ黄金聖闘士が刺客となってただ逃げるだけだったアイオロスをぼこったというひどい話だった。アテナを殺そうとた偽教皇から彼女を守るために逃げたという聖闘士として正しいことをしたのに仲間に殺されるとか報われなさ過ぎると思っていたけど今の状況って結構複雑だよね。
殺人教唆した偽教皇たしかサガという人と殺人犯した黄金聖闘士と仲間に殺されたアイオロス、兄を殺されながらも聖域で聖闘士として過ごしていたアイオリア。
「いや、俺はアテナに救われたほうだ。俺がしたことは聖闘士として当然のことだというのに一度失った命を戻して頂けたのだからな」
微笑んでそう言ったアイオロスの様子から本当にそう感じているらしい。
「死後14年も経っていて必要とされるなんてすごい」
「えっ?」
私の言葉に驚いたように瞳を見開くのを確認しつつも感じたままに口に出してしまったのは取り戻せないので開き直り。
「それは貴方だからこそですね」
死んでしまったとはいえアテナを守りつつ黄金聖闘士から逃げ切ったのだから実力の高さは想像できないほどだ。そんな人間がいたら復活できるなら私は復活させる。
カミュから私が逃げようとしたところで自身は光の速さで動き、こちらの動きを止めるような凍気を漂わせることが出来るのだから負けは決定だ。私には出来ないし。
「ハッハハハハ、の言うとおりだぞ。お前を必要とされたからアテナはお前が蘇ることを望んだ」
「イッ!……アルデバラン!」
いい音を立ててアルデバランに背中を叩かれたアイオロスが抗議するが笑っているアルデバランには気にした様子はない。
だったな」
「はい?」
じゃれ合っているかのような二人の様子を眺めていたらアイオリアのほうが私へと話しかけてきた。アイオロスよりも精悍な顔立ちなのは彼が裏切り者の弟として苦労してきたことの表れかもしれない。
そういえぱカミュもアイオリアのことを教えてくれた時は複雑そうな表情をしていた気もするっと改めて思い出す。確かめたわけではないのでそうではなかったかもしれないが今更か。
「ありがとう」
「……何がでしょうか?」
「いや、何でもない」
そう言いながら人の頭に手を置いて二度ほど軽く叩かれる。当人はとても嬉しそうに笑っているので礼を言われた意味はわからないけど否定はしないでおく。
よくわからないが聖域の人というものは私のような一般人とは感性が少し違うらしいというのはシベリア修行時代で学習済みだ。でも、さすがに中身はこの身体になる前から二十歳を超えているので頭に手を置かれたままなのは抵抗がある。
撫でられないだけマシだとは思うけど早く手を下ろしてくれないかなっと彼を見上げれば青緑の瞳と目が合う。彼の兄であるアイオロスは今、頭上に広がる空のように明るい青色の瞳なので瞳の色は違うのだと知った。
瞳の色が違うのかと彼にたずねようとする前に覚えのある小宇宙を感じたような気がした。気のせいかもしれないけど、そういえばカミュには訓練後に顔を出すように言われていたので探しに来たのかもしれないと視線をそちらへと向ければカミュがこちらを見ていた。
「カミュ!」
わざわざ呼びに来るぐらいまで時間をかけてしまったらしいと慌ててカミュに声をかけたところでアイオリアの手が下ろされていることに気付いた。聖闘士達の身体的能力は凡人に毛が生えた程度の私には相変わらずわからないな。
「それでは失礼します」
もうとっくに諦めた身体能力について考えるよりも、待たせているカミュのところに行くとしよう。
三人に声をかけた後に無意識に頭を下げてカミュの下へと走り出す。実は訓練のノルマが終わっていないのだけれどいつもはきちんとしているし、一日ぐらいは許してくれるよね。



アルデバラン視点

カミュより弟子であるが聖域に来ることは知らされていた。それは彼をカミュの元に送り届けたのが自分だったからこそ話されたことかもしれないが彼のことは覚えていた。
常に考えていたわけではないがカミュが弟子達の話をすれば彼の話もするのでごく自然に俺が連れて行ったカミュの弟子は修行を頑張っているようだと知れた。
カミュの話では頑張りすぎているという話ではあったが一つとはいえ年下のそれも弟弟子に負けたとあればそれも無理からぬことだろうが、俺に彼が聖域に来ることを話したのは気にかけてやって欲しいという思いの表れだろう。
そう考えていたからか任務の報告後に訓練場で見かけた東洋人の少年はきっとだろうと思い彼をしばらく眺めていた。
修行をしていると気付いてはいたが彼の周りには誰も居らず、一人で決められたように淡々と身体を動かすその様子にカミュの危惧するものを理解できたような気がした。
?」
名を呼べば瞬時に動きを止めてこちらを振り返った。自然なその動作はもしかしたら見ていた自分のことを彼は気付いていたのかもしれないと思わせた。だとしたら、彼の集中力というものは優れたものがあると同時に俺の呼びかけに答えたあたり周囲に対する注意力も高い。
高い才を持つ子どもだとを難しい表情で称したカミュがは聖闘士になる実力はとっくに身につけていると認識しているのは知っていた。
教皇をしていたサガに白鳥座の聖衣以外の聖衣を継ぐことが出来ると推薦したのを知っている。結局のところ聖衣を彼が受け継ぐことなくサガの乱となり、聖戦が終わるまで彼は聖闘士としての試練を受けることすら出来なかったようだ。
訓練所にいる誰よりも聖闘士の基本にそった身体の動き、確かに俺達のような黄金聖闘士と比べれば速さも強さも足りないかもしれないが訓練所に居る者達と比べるまでもなく抜きん出た実力を持っているようだ。
「やはりか。ああ、さすがに覚えていないか。お前をカミュのところへ送り届けた者なんだが……」
息を呑み訝しげに見つめながら身体を緊張させてすぐにでも動けるようにしたその様子に見知らぬ人間ではないと説明したところ緊張を解き。
「アルデバラン」
「ああ!そうだ。覚えていたか」
名前を名乗る前にこちらの名を言ってくれたことに嬉しくなった。黄金聖闘士のことは教えられては居ただろうし、俺のことも説明されただろうが考えるそぶりなどなくごく自然に彼は俺の名を呼んだ。
これは俺自身のことをきちんと覚えていてくれたからこそだろうと嬉しくなって彼の頭に手を伸ばそうとして小柄に見えるからと子ども扱いしてよい年ではないと動かすのを止める。
久しぶりだと告げれば頷き、カミュの命で聖域に来たのだと説明してくれはしたものの彼が自分がここに居る理由を理解していない様子だった。
カミュはクールではないと言っていたがは兄弟子や弟弟子に対して無意識に力を制御するところがあり、実力以下の結果しか出せないのだと話していた。
一人で鍛錬している時には鋭く攻撃的なほどに小宇宙は高められるというのに兄弟弟子達との対戦ではそれは皆無であり、その違いと日頃の小宇宙の不安定さにより精神はまだ頼りないと感じていたようだが聖衣を授かることで自覚し強くなるだろうという気持ちもあったようだ。
師である彼に似たのか彼の三人の弟子達は真面目であるということは共通点であり、クールと言いながらも情に熱いというのが俺の認識だ。
「アルデバランッ!」
「久しぶりだな!アイオロス、アイオリア」
と話してたが名を呼ばれて顔を上げれば同じ黄金聖闘士である兄弟の姿があったので手を挙げて答えれば二人はこちらに歩いてくる。
訓練場に二人が姿を見せたのは訓練生達の面倒を二人がよく見ていたからだろう。アイオリアの場合は一度亡くなる前のアイオロスがそうしていたから始めたところもあっただろうが……
「ああ、久しぶり。任務から戻ってきていたんだな」
「珍しく時間がかかったな」
任務自体はそれほど時間は掛からなかったものことが収縮へと向かっているかの確認のためにしばらくの日数を必要としたので時間がかかった。
もう終わっている任務ではあるがその内容を訓練生の前で口にするものでもないと思い頷きで答えれば、いつの間にやらアイオロスが興味深そうな視線をへと向けていた。
アイオロス自身は優れた聖闘士ではあるし、個人としても付き合いやすい男ではあるが少々好奇心旺盛なところが玉に瑕といったところか。
のことは隠すことではないので紹介はしたもののアイオロスの勢いにのまれる前に話を切り上げようとまで考えていたというのには彼に対して気負った様子もなく話しかけていた。
下手に俺が話しに入るほうが面倒なことになるかと大人しく会話を聞いていたら、アイオロスをが動揺させた。見た目は15歳と若々しい彼ではあるが中身は違うので動揺を見せるのは珍しい。それが面白くて笑えてきた。
「ハッハハハハ、の言うとおりだぞ。お前を必要とされたからアテナはお前が蘇ることを望んだ」
「イッ!……アルデバラン!」
相手は黄金聖闘士と普通に叩くよりも少し力を入れたつもりが強くしすぎたのかアイオロスから睨まれた。
「すまん。痛かったか」
「もうちょっと手加減を覚えろ」
素直に謝ったというのに背中の方に手のひらで触った彼の姿に目を細める。かつては彼は俺達よりも年上で大人のように振舞っていてそんな姿は見たことがなかった。
ああ、14歳という若さで彼は俺達を導き。そして逝ってしまったのか……アテナ、貴方に感謝します。俺達に再びを許してくれたことを。
アイオロス、今度は一人だけにすべてを背負わせることなく友として支え合おう。そう心に誓う。



アイオロス視点

彼の瞳を見た瞬間、サガとはじめて会った時を思い出した。
見た目には似たところなど少しもないのに彼がどうしてサガを思い出させるのかと視線を向けていたら彼は真っ直ぐに見つめ返し微笑んだ。
サガの時とこれもまた同じだとは思いはしたが笑顔を見た時に感じたことはサガの時とは違う気がする。
「彼は?」
アルデバランと話していたのだから知り合いだろうとアルデバランにたずねればカミュの弟子だという。
氷河とアイザックのことは知っていたが他にも弟子が居たのかと妙なところで感心したのはという彼がカミュの弟子としては雰囲気が違うからだろうか。
サガを俺に連想させたように彼は何処か精細なものを感じさせた。それは小宇宙が揺れるのが人よりも大きいからかもしれない。
彼自身は年齢以上に落ち着いていながらその奥に彼とは別の何かがあるような……
「兄さん……俺は獅子座のアイオリアだ」
弟の声に不自然なほど彼を見つめていたことに気付かされた。
「射手座のアイオロス、よろしく。!」
誤魔化すためにも勢いよく名乗り手を差し出せば手を握ってくれたので手を振る。
俺の行動に戸惑っているのかアルデバランへと視線を向けていたけど僅かに首を傾げ。
「射手座?」
またも見つめ合うことになったが今度は俺のほうが戸惑った。
彼の様子からして俺が反逆者として長く扱われていたことを知っているのだろうと思うが嫌悪感などは浮かばない。
同時に英雄視されるような尊敬の念といったものも感じられないことが不思議だった。
「14年前に死んだんだが今回のことで蘇ったんだ」
「アテナを救った方ですか?」
なるほど俺が反逆者となっていた射手座と同一なのか確認していないからか。現射手座であろうとも14年前に射手座として亡くなったかどうかまでは話していない。
少しばかり用心深すぎる気もするがカミュの教えからするとこれぐらいの慎重さを身につけるものなのかもしれない。
「いや、俺はアテナに救われたほうだ。俺がしたことは聖闘士として当然のことだというのに一度失った命を戻して頂けたのだからな」
聖闘士として当然のことを本当に俺はしたのだろうか?アテナを守り闘うのが聖闘士の役目、本来であればアテナを殺めようとしたサガを殺してでも止めるべきだったのではないか。
友を殺めることに戸惑いアテナが赤子であることを言い訳に逃げることを選択したのではないかとことが終わった今になって思うのは、俺を殺したことを気に病む親友を知ったためだ。
アテナを守り逝ったあの時の俺には後悔はなく、アテナの命を救えたことと友の裏切りに悲しみを感じながら魂だけの存在となり、アテナを見守り続けた。
肉体がないがために感情は希薄で傷つく星矢達、聖域の仲間達をただ見ているだけの不確かな存在。嘆きの壁を黄金聖闘士として打ち破るために力を集めた時は高揚したが……
「死後14年も経っていて必要とされるなんてすごい」
「えっ?」
星矢と比べると丁寧な言葉で話していた彼が普通の子どものように話したこととその内容に戸惑った。どちらの戸惑いが大きかったのかわからない。
「それは貴方だからこそですね」
笑って俺だからこそ必要とされたのだと言い切った彼に目元が緩む。ああ、やばいかもしれない……泣きそうだ。俺の涙は突如感じた背中の痛みのせいで引っ込んだ。
殺気とかない攻撃は避けづらいからやめて欲しいとアルデバランを睨んだが、子どもの頃に通じた視線は効かなかった。
すぐさま謝ったのはいいとして目が笑っているせいで反省したとはこれっぽっちも思えないぞ。昔は俺の一睨みで反省してくれたりしたんだが大人になった彼らには効果がないし、俺のほうが見た目が年下のせいか気づかわれたりするのが何とも言いがたい感情を生む。
何より昔は同年代だった親友よりも歳が10以上も若いっていうのは何かに負けた気がして嫌なんだが亡くなった姿のままに蘇ったおかげで歳のことを気にしたりするとサガは気に病む。我ながらひどい言い草かもしれないがちょっと面倒な親友だと思う。



アイオリア視点

星矢達と同年代である年若い彼と兄は同じぐらいの外見年齢だ。一部の例外を除いて死んだその時の姿のままで生き返ったために黄金聖闘士達の中で最も若い身体を持つ。
これからも成長し続けるだろう兄の身体とは違って俺達はあと10年もすれば身体的能力を損なっていくことだろう。サガあたりは肉体的ピークはもう越えているはずだ。
例外である教皇と老師のことは置いておくとして兄が最も年若い姿に戸惑いを覚えているのはわかってはいた。だが、それを指摘すれば兄は隠してしまうだろうと何も言えずにいたというのにカミュの弟子であるという少年は短時間のうちに兄の心を解した。それに悔しさを感じないわけではないが……
だったな」
「はい」
兄とアルデバランの会話は気にしないことにして兄と話していたのに放り出される形となってしまった彼へと声をかける。
「ありがとう」
「……何がでしょうか?」
礼を言いはしたが彼は兄の事情をすべて知っているわけではないし、兄の心のうちというのも俺の想像でしかない。
「いや、何でもない」
首を振り誤魔化せば、彼は瞬きをして戸惑いの表情で俺を見上げた。彼の年齢にしては幼く感じさせるその表情に俺は彼の頭を叩くように撫でた。
星矢もそうなのだが修行を熱心にするあまりなのか精神的に子どものように純粋な訓練生というものが少なくない。聖闘士となって外へと出て人と接することで成長するといったことも多いし、俺もそのような人間の一人だった。
兄は反逆者として扱われ、その弟として俺のことを見る聖域は俺にとって安心できる場所ではなかった。それゆえに聖域外への任務の時に触れ合った一般人に俺は時に戸惑ったものだ。
冷気をまとう小宇宙が一瞬高められ、それに気付いた兄やアルデバランが不毛な会話を止めて俺は彼の頭に乗せていた手を下ろす。
「カミュ!」
俺達が視線をそちらへと向けている間にが小宇宙の持ち主の名を呼び、呼ばれたカミュは笑みを浮かべた。
カミュは気付かせるために小宇宙を高め、弟子である彼は見事にそれに応えた。師としてそれが嬉しいのだろう。
この訓練場にいる人間でカミュの小宇宙の一瞬の高まりに気がついたのは俺達、黄金聖闘士と彼しかいない。
今、この場にいるのが俺達以外の聖闘士が青銅しか確認できないが聖闘士になっていない彼のほうが小宇宙を感じる力が上とは。
「それでは失礼します」
そう言葉を発して頭を下げると師であるカミュの下へと駆けていくその背に視線を向けていると兄が隣に立ち。
「あの小宇宙に気付くなんて」
感心したように呟いた声にアルデバランが己の考えを述べるためか口を開き。
「カミュが試練を課すように聖戦まえに要請したことがあるぐらいだ。これもまた当然のことかもしれん」
「認めてるということか」
「なるほど、聖闘士になれるだけの実力はとっくに身につけていると」
アルデバランが知っているということはカミュに聞いたんだろう。彼の弟子語りに耳を傾けることはあまりしなかったので俺は知らず、兄もまた当然知らなかったようだ。
がカミュの近くへとついたところでこちらへと視線を寄越したカミュへと頷く。兄は手を振り、アルデバランは手を上げた。
それぞれの反応を見た後にカミュはへと話しかけると彼は頭を下げ、カミュと共に連れ立って戻っていくその姿が小さくなるまで俺達は見送っていた。





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