・・・ずっと


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私達の頭上の空は闇に蔽われてしまったかのような漆黒の世界。空とは例え夜であっても月の輝き、星の瞬き、その光りは地上を仄かに照らすものだと思っていたのに、その光すら雲が隠してしまっている今宵の空に何か不安を感じる。
「今宵は月も星も見えませんね」
険しい顔をした主に私は声をかけた。
此処は我が主、呂布様の屋敷であり、夜は護衛の職がない時は私は与えられた自室で過ごしているが今宵は話があるからと呼ばれたというのに、呂布様は陰のある顔をなされているだけで、肝心な話は出ずに夜が更けていく。
「……そうだな」
不機嫌ながらも頷き応えてくださる。それは、まだ呂布様の中に私という存在が僅かでも残っている証のように思う。
護衛兵となって10年。15の時より仕えてきたただ一人の主。私は長き時を呂布様の後を追ってきたが今もまだ追いつけないでいる。
それでも、良かった。あの方が現れるまでは……。今の呂布様の心を占めるのは戦いではない。
貂蝉。いえ、貂蝉様にたった一人の女性に会ったが為に呂布様は多くの物を失う事になるのかもしれない。
丁原殿を裏切ってまで董卓様の養子となったというのに今、また董卓を裏切ようとしている。
二度の裏切り、それは呂布様にとって良いことであるのだろうか?そうでなかったとしても私にそれを止める術はない。
?何か考え事か?」
気付くと呂布様が心配げに此方を見てていた。私は心配をかけまいと微かに首を振る。
「そうか。……お前は幸せか?」
唐突な問い。
「はい。呂布様にお仕えしておる事が幸せでございます」
それに私は微かに首をかしげながらも頷けば呂布様は一層、表情を影させ。
、俺は不幸な女性を一人知っている」
それが誰を指すのかがわかったけれど、私は問うように呂布様を見上げる。それをこの方はお望みだろうから……
「その女性を俺は救いたいと思っている」
強く強く拳を握り締める様子に私は泣きたくなる。でも、感情を表す事など出来無い。それをこの方はお望みではないだろうから……
「はい」
私は頷いて返事を返す。
いつもと同じように。呂布様の独り言のような考え事を聴き、頷く立場は信頼の証のようで嬉しかった。
いつまで私はここでこの方のお話を聴く事が出来るのだろうか?
「俺は董卓から彼女を……」
目蓋を閉じる。ついにこの時が来てしまったのだ。
「貂蝉様をお救いになられるのですね?」
私に止める術は無い。ただ、頷くだけ……
この方と少しでも共に居られるように。
「ああ、お前ならば察していてくれると思っていた。
察したくなどなかった。と、そう本音を言えば貴方様はどうなさるのでしょうか?
私は微かな笑みを浮かべて。
「その時は私も全力を尽くさせて頂きます」
他の誰にでもなく貴方様の為だけに私の忠誠も想いも人生すら捧げた方。
すべての人々が貴方に背を向けたとしても。
この夜が明けず、貴方に光りが届かなくとも。
私は貴方へと仕えましょう。貴方の最後の時までずっと。

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