ジャック・オー・ランタン


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オレンジ色の大きなカボチャ。綺麗に丸いその形のカボチャに惚れ込んで私は手を伸ばす。
「素敵な形」
けれども、大きさも素敵なそれはずしりっと重い。
「あれ?」
片手で無理ならば両手で持ち上げようと試みる。
何とか持ち上がったものの、ごく普通に持ち歩けない。
「これ、普通に重いんですけど」
私はそのカボチャを持ってきた張本人に文句をつける。
青い仮面の彼は私の手からそのカボチャを取り上げて。
「そうだろうな」
確かに大きいし、綺麗な形。
ただ何でそんな大きなカボチャを彼が持ってきたのかが理解できない。何よりそれを彼が私に持ってきたということがわからない。
「見事なカボチャなのは解るんだけど、何でこんなの持ってきたの?」
「ハロウィンだろ」
ごく当たり前に言い切った彼。私はハロウィンという言葉に今月は10月だと思い出した。
10月31日はハロウィンという祭りで子ども達が夜になると「トリック・オア・トリート?」と叫びながら徘徊するという。日本人にはイマイチよく解らないあのイベントよね。
「徘徊するの?」
彼が徘徊したら、かなり怖いかもしれない。一部の方々、特に女性には喜ばれるかもしれないけど。
「はぁ?何を言って」
意味が解らないという彼に私が思ったことを説明する。表情が良く解らない仮面の下。
、何を馬鹿な事を言ってるんだ?ハロウィンはキリスト教の万聖節のイブの日。それまでかぼちゃの中身をくりぬきジャック・オー・ランタンを作ったり
 当日の夜になると子どもが怪物の格好をし、近所の家を訪ね「Trick or treat?」という決まり文句を言ってお菓子をもらったりする行事だよ」
しかし、よほど私の説明に呆れたのか説明をしてくれた。その説明を聞いても私の想像した事とあんまり変わらない気がする。そのことが表情に出たのか。
「……お前と一緒にハロウィンを楽しもうかと考えた俺が馬鹿だった」
深いため息をつくとカボチャを持って立ち去ろうとする彼。
「わぁっ!ちょっと、待ってケビン」
慌てて彼の腕を掴む。それぐらいでは本当は止められないだろうけど、彼は立ち止まってくれたのだから本当に帰る気はなかったぽい。
「なんだ?」
少し不機嫌そうな声。
「そのカボチャってジャック・オー・ランタンにするのよね?」
私はその声を気にしないようにして訊ねる。
オレンジ色の綺麗な形で大きなカボチャを持ったまま、頷くケビン。
「作り方教えて」
ハロウィンを祝う習慣は日本には薄い。近頃は増えてきているようだと聞くけれども、バレンタインやクリスマスに比べると全然だし私の周りにハロウィンを楽しもうと思う人たちも少なかった。
「本気で言ってるのか。
私の言葉が信じられないとでもいうのかケビンが確認してくる。
「ハロウィン自体はよくわからないけど。カボチャのランタンは作りたい」
正直なところを告白する。ケビンが此方を見ていることは感じられて、何故か緊張する。先生に合格か不合格かを発表されている気分。
「仕方ない。教えてやる」
「やった」
嬉しくて手を叩いた。こんな機会が無ければカボチャのランタンなんて作らないし、作れないもの。
「よろしくお願いします。ケビン」
いざ作るとなるととても楽しみになって私は笑顔でお願いした。するとケビンはしばらく沈黙し。
「……元々はその為に持ってきたんだしな」
私から視線を逸らすとカボチャを抱え直した。ケビンとカボチャ。最初はミスマッチと思ったけれど見慣れると可愛いかもしれない。
「何が可笑しいんだ?
思わず笑っていたらしい私にケビンが怪訝そうに言った。此処で正直に言えばきっと、ご機嫌が斜めになってしまうだろう。
「……そうね、たぶんケビンと何か一緒に作るって事が楽しいのよ」
何も言わないつもりだったけれど、私は自分の中にある本音を少しだけ漏らす事にした。
誰かと一緒に何かをする。それがケビンであれば本当に嬉しいことになる。
「ジャック・オー・ランタンぐらいだったら毎年作ってやるよ」
ケビンの約束。その約束に私は笑う。
「毎年、一緒に作ってくれるの?」
「あぁ」
しっかりとケビンが頷いてくれる。


来年も、その次もずっと。ハロウィンだけじゃなくて色んな行事を一緒に過ごしていきたい。そう言ったら、ケビンは頷いてくれますか?

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