侵食


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ゲームでの印象は可もなく不可もなく、彼はあまりにも怪しすぎるもんだから怪しいから嫌とかそういうのとは別次元だった。
実際にこのThe Worldでの出会いも思い返せば悪くはないのではないだろうか。
彼の言うことには一理あるとは思っていたし、彼の言葉遣いに慣れてしまえばいいのだ。
ようは彼はこの喋り方が普通なのだからして此方を馬鹿にしている意図はたぶんない。
ハセヲ君とはまた別の意味で少しばかり損をしてるタイプではないだろうかと思う。
いや、偉そうな態度の人には反射的に逆らっとけ的なハセヲ君とは違う人達からは崇拝されてるからいいのか。
マク・アヌのドームに入った時にちょうどエリアに行くか帰ったのかの榊と彼の近くには見覚えのない二人がいる。
何番隊と分かれているらしいので、きっと二番隊隊長の榊のお取り巻きというか二番隊の隊員さんか何かだろう。
彼らがカオスゲートの付近に居るからとドームを出る必要もないだろうと私はエリアに出る為にカオスゲートへと近づく。
「やぁ、君」
彼が元々、気づいていたのかそれとも近づいたから気づいたのかは知らないがカオスゲートに近づいた私に榊が声を掛けてきた。
「どうも」
それを無視するようなことをせずに私は挨拶を返す。
別段に喧嘩を売られるようなことはしていないし、されていないのだから変に身構える必要もない。
「今から何処かへ行くのかい」
彼も普通に話しかけてきているのだからその考えは間違ってないはず。
「その為に此処に来たから」
榊の言葉に頷いた。普通はドームに来た理由はこのマク・アヌ以外の街かエリアへ行くことだと思う。
が、彼は頷かずに何やらあごに手をそえて考える仕草をする。
「ソロで?」
「そうだけど」
月の樹では普段からソロではなくパーティー行動を推奨していたんだったかな。
彼もその為に後ろの二人と行動していたのだろう。
「では、よければ私も一緒に行ってもいいかな」
意外な事を言われて私は瞬きをする。
一緒に行きたいと彼が言い出すとは思わなかった。
「……後ろのお二人さんは?」
けれど、彼はもう一緒に居る相手がいるではないか。
榊の話に口を挟まずに大人しく待っている彼らに私が視線を向けると。
「パトロールは終わったところでね。後は解散の言葉を言うだけだったのだよ」
解散するからその後にどう行動するのかは自由ということか。
しかし、月の樹ではパトロールの当番を決めてたりするのかな。
「……って、二人を待たせてるってことじゃないのちゃんとやりなさいよ。二番隊隊長の榊さん」
彼の言葉が正しければ解散する前に私が来て、解散を宣言するだろうリーダーの榊が私と話しているということじゃないか。
この人の妙なカリスマ性で彼ではなく私に恨みがきたりするのは嫌なのでそう言ったのだけれど、まだ榊は私を見ている。
「まだ返事を貰ってない」
そんな細かいことを男が気にしないでほしい。
うらむやのうちに終わらせて何処かエリア行こうと考えていたのに。
「解散させるまで待ってるからさ。あの二人に悪いでしょう?」
私は悪くありません。
その意味を込めて彼らにも聞こえるようにハッキリキッパリ、くっきりは、関係ないけどそんな感じに私は言う。
「では、待っていてくれ」
これで待っていないと今度会った時に説教をされることだろう。
それは避けたいので大人しく待つ、こんな年で誰かに説教はあんまりされたくはない。
「うわっ、エセくさ」
笑顔で二人に解散を言い渡している二番隊隊長の榊さん。
いい人そうな笑顔なのに何故、こうもエセくさいのか……人徳だろうか?いや、そんな人徳は捨ててしまった方がいいだろう。
「……あっ」
メンバーアドレスが届いた。
二人が榊から離れていっているということは解散してすぐに送ってきたのだろうか。
彼がログインしているかしていないかすぐに判るし登録しておこう。
「それで、何処へ行くの?」
登録して一緒に行かないのも変な気がしてパーティーに誘えばOKされ、私は何処かに行きたいと思っていたわけではないので訊ねる。
「何処へでも……と、言いたいところではあるが君と私との差は大きい」
ハセヲのレベルに合わせてたもんだからいつの間にか私のレベルはかなりの高レベルになっている。
確かにコレだと私のレベルに合わせたところへ行けるのは今のところ知り合いではハセヲしかいない。
「んー、適当に行くつもりだったから榊に合わせたところでいいよ」
彼と一緒にパーティーを組む機会なんてそうあるものでもないだろうから此処は彼に決めて頂きましょうか。
「そうか。ならば……」
その日私は攻撃手ではなく補助としてのんびりと過ごした。



後日。
「あっ、榊だ」
ホームでぼんやりと過ごしているとログインしたのか榊から連絡が入った。
「……んっと、デルタサーバーの…」
そこへ行こうということはどう考えてもパーティーのお誘いだ。
下手するとハセヲよりも榊は私を頻繁に誘っている気がする。
「これでなし崩しに月の樹に加入してたりとかないよねぇ」
断る理由もないので近頃は2人でパーティーを組むことも多いんだけどね。
どうして誘われるのかが疑問なんですよ。
「何考えてるんだろう」
榊が何を考えているのかと私は疑問に思う。

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