かけっこ
知り合いがログインしてきたことが何となくわかるのは便利なのかどうなのか。
この入り具合からして今の時間は夜と分類される時間になってきた頃だろう。
この時間ならホームに誰かいるかと中央区からのんびりとホームがある傭兵区へ移動をしようとして……。
「クーン様ぁ」
甘ったるい女の子の声で知り合いの名前が呼ばれた。
あぁ、何というかね。こういう状況で名前を聞くと切なくなるのは知り合いになったからだろう。
振り返れば可愛らしい女の子PC達に囲まれた予想通りのカレーレンジャー当ギルドのギルドマスターだった。
「わたし達、今挑戦しているエリアがあるんですけどぉ」
可愛らしくクーンを見上げる女の子。
「ちょっとレベル高くてぇ」
別の女の子がそれに合わせて可愛らしく彼に告げる。
「それなら俺に任せ……」
ゲームで見てたから、その軽いノリは知ってたんだけどね。
立ち止まって彼らを観察していたら、クーンが予想通りな返答を彼女達に返したが途中で此方に気づいた。
「よぉっ!」
片手を上げて挨拶をしてきたので私は少し近づき。
「やぁ、マスター」
視線を女の子達に少しだけ向けた後にクーンへと手を振る。
「私はホームに行くから、じゃあね」
クーンと女の子達という構図は面白くない。
彼はデレっとして、しまりのない顔を……しているように見えるだけだけどさ、雰囲気はまさにハーレム状態って感じ出し。
「ッ!」
後ろからクーンが名前を呼んだけど無視をした。
私はハーレムの一員になるつもりもないし、あの女の子達のノリにはきっとついていけないと思う。
一人、一人はいい子だろうけど女の子達の仲間意識から外れると怖いものがある。
「ちょっと待ってくれよっ!」
三人から離れたと思っていたのにクーンの声が聞こえて立ち止まると振り返る。
クーンが私を追ってか走って近づいてきたけど、その近くに女の子達の姿はなかった。
あの話の調子だと一緒にエリアに出るとばかり思っていたのに。
「彼女達は?」
「あそこで別れてきたけど」
私の前で立ち止まったクーンに訊ねると彼は先ほどの方を示して答えた。
「ふぅん」
どうして別れてきたのかがわからないので頷くだけにしておいた。
「と一緒にカナードに行こうと思ってさ」
「エリアに出るところだったんでしょう」
クーンが私を追ってきた理由はソレらしい。
だけど、そんなことで彼女達の誘いを断る理由にはならないと思う。
「えっ、まぁ……そういう話にはなってたけど、断ってきた」
笑って答える彼だが、私の知るゲーム内でのあのクーンの女の子への態度にしては不自然に感じられた。
見ていたのが私じゃなくてパイだったら切り上げそうだけどね……って、私の立場ってパイみたいな感じなのかな。
同性からの視線だと気にしないけど、異性からの冷たい視線はクーン気にするとか?
「嫌われても知らないよ」
私はニヤリッと意地の悪い笑みを浮かべてクーンに言ったが彼は肩をすくめ。
「また今度ってことにしたんだよ」
気にした様子なく答えた。やはり、ゲーム内の彼の行動とは少し違う気がする。
此処はもう少し反応すると考えたんだけどなぁ。
「そんなことより……ほら、行くぞ。」
手を振ってクーンがホームへと歩き出す。
その後ろについて行きながら彼の態度の不可解さについて考える。
彼女達と接する時とは違うし、ゲームで彼がパイに接する時とも違う。
彼が私と接する時に何を考えているんだろう?
少しでも私はクーンにとって特別なのか。それとも、そうじゃないのか……。
「馬鹿馬鹿しい」
期待した自分に思わず呟いた。
「どうした?」
私の呟きに振り返るクーン、こんなことを考えるのも彼のせいなのだ。
「クーンっ!ホームに先についた方が勝ちね」
走り出しクーンを追い抜くと私はホームへと向かった。
「ずるいぞ!」
クーンはきっと私を追って走り出したんだろう。
唐突にこんなことをしても付き合ってくれるのは彼が付き合いがいい人だからだ。
でも、この勝負は私の勝ち!
悩んだ分を少しぐらい解消しても罰は当たんないわよ。