でたらめ
The Worldという世界は造られた世界だ。
この世界に生きるNPC達はただ決められたとおりに日々の行動を繰り返しているに過ぎず、彼らの語りを聞くことは出来ても会話することは出来ない。
そんな世界に生きている今の私は中途半端な存在であると思う。今の私に現実を認識できていないのに、この世界は人により造られた世界だと知っている。
ログインして遊ぶPCとも違うし、役割のあるNPC達とも違う。私はPCのように成長しNPCのようにログアウトをしないのだ。
「でたらめ」
それが、今の私に相応しい評価だろう。
「何がだ?」
自分についての評価を考えている間に約束の時間になっていたらしい。
レベルダウンした彼は今は必死にレベルを上げている日々で、ログアウトしない私は彼によく誘われており今日も誘われて待ち合わせをしていた。
彼を待つその暇な時間に私は@ホームにて色々と考えことをしていた。
「やぁ、ハセヲ。このさんはちょっとぱかり哲学的なことを考えていたんですよ」
「の考えることって夢想の間違いじゃないか?」
呆れたようにハセヲが私の言葉を否定したので私は肩を竦める。
彼に今の私の状態を言っても理解しないだろう。
いや、もしかしたらAIDAの所為だとして信じてくれるかもしれない。
可能性は低いのでやはり話すのは止めにしておこう。
「まっ、話は狩りしながらでも出来る。行くぞ」
「了解」
元のレベルに少しでも近付こうと上げているハセヲ。
ゲームではサクサクッと上がっていたレベルは此方ではあまり上がらないのは、ゲームと現実という差だろうか。
私が操っている時間は1時間だったとしてもゲーム内では実は1週間になっていたりしたのかもしれない。
「……おいっ!ちゃんと聞いてるか?」
ハセヲの後を追ってカオスゲートについていたんだけど、私の反応が鈍くてハセヲが怒っていた。
「あぅ、ごめん聞いてない」
「あのなぁ……俺が言うのも変かもしれないけど疲れてるんなら休んだらどうだ?」
怒られると思ったハセヲから出てきたのは私を心配する言葉だった。
人の話を聞いていないということに怒られると思ったんだよね。
「疲れてないよ?」
ハセヲの言葉にフルフルと首を振る。
「嘘付け、お前さ近頃は俺に合わせて行動してるだろ?」
「だって、ハセヲの力になりたいんだもの」
私は正直にハセヲに合わせて行動していることを認める。
ここで否定してもハセヲはこれっぽっちも信じてくれない気がするから認めてしまった方が楽。
「そんなこと、俺は頼んでないだろ」
誰かが自分の為に無理をすることをハセヲは快く思わない。
自分自身は誰かの為に必死になったりするのにね。
「うん、私がそうしたいだけだよ」
その不器用な優しさがハセヲの優しさ。
「、俺の力になるっていうのならもっと休めよ」
「……これでも休んでるよ。心配してくれてありがとう。ハセヲ」
ハセヲと接するようになって、私はハセヲのことを本当に好きになった。
ゲームの主人公とかそういうの関係なく、彼を彼として私は好きだ。
「お前が倒れると俺の所為にされそうだからだよ」
「心配かけないように、これからは気をつけるよ」
造られたこの世界。
ここに居るハセヲ。
私という存在。
どれが本当でどれが偽りなんだろう。
私は『』というデータだけの存在ではないと証明できるものはない。
「今、ここで出来ることをハセヲとしたいから……」
私のすべてがでたらめだとしても今の私が願うのはハセヲと一緒にいること。
「大丈夫だっていうのなら狩りいくか?」
「もちろん」
ねぇ、ハセヲ。少しでも私が役に立つのならその間は一緒に居させてよ。
いつか壊れてしまうかもしれない造られた世界でも、ハセヲと過ごす時は本物だと信じていられるから。
ほら、今日もハセヲとの冒険がはじまるからドキドキしてる。